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飲食店は「食の編集」をしている

表参道の裏側と言われる裏参道エリアに、『裏参道ガーデン』という新しいスポットが誕生した。古民家をリノベーションした趣ある一軒家に、日本文化を大切に受け継ぐユニークな店舗が6店舗入っている。

裏参道ガーデンは「古」と「新」を融合させた場所で、それを表すために入口の踏み石は新しい石と古い石を組み合わせて配置しており、中庭にある木もすべて以前から生えていたものを残しているという。

インバウンド向けに作られた施設だそうで、「体験型横丁」というコンセプトだ。あらゆる形で日本らしさを体験してもらう。例えば明治2年創業のお茶屋さん『宇治園』では、気軽に茶道体験ができる。日本酒と食を味わう『gokaque』(世界で最もポピュラーなお酒であるワインと日本酒が互角に渡り合えるようにという意味で名付けられた)では自分で熱燗を作れる。お香の専門店『juttoku』(かつて一休さんがお香の効能を「十徳」として挙げたことに由来する)では自分のブレンドによるお香作りが体験可能だ。

由緒正しき伝統を、堅苦しく敷居の高いものだと遠巻きに見ているだけではもったいない。それでは伝統が死んでしまう。現代に合った形に変えて提供することで、気軽にお客様の生活の中に取り入れてほしい。どの店舗にも、そんな共通の想いが存在する。

日本産ワインと焼酎を漬物と合わせて提供する『○郷』の店主は、お客様にレシピを聞かれたら材料から配合まですべて教えてしまう、と笑いながら言った。

「技術を隠すことに意味はまったくないと思っています。お客さんがいいと思ってくれたら、その人の日々にすっかり全部取り込んでほしいから。日本の飲食業界ってパクリパクられの世界だし、技術はその中で新陳代謝してより良いものに進化していけばいい。僕はこういうものがありますよ、こういう組み合わせがおもしろいですよって紹介するだけ。そこで新しい食の楽しさを見つけてほしい。ただ食べるだけ、なんてつまらないじゃないですか。食べることをもっともっと楽しんでほしいから、全部教えちゃいます」

この話を訊いていて、飲食店は「食の編集」をしているのだなと思った。0から1を作る職人もいると思うが、大半がすでにある食材・技術を組み合わせて、新しいものを作る。そこに新しい価値が生まれ、人の心を動かすのだ。

そういえば、駄菓子の「梅ジャム」は、現在たった一人の職人が作っているという。一人で梅ジャムの全生産を担っており、その人がいなくなったら誰も作れる人がいない。「まだまだ自分でやれる」と言って、だれにもレシピを教えないそうだ。梅ジャムは長らく食べていないし食べる予定もないが、なくなってしまうのはさみしい。その職人はもう80歳くらいなので、早くだれかに継承してほしい。なくなってしまっては、編集のしようもない。

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秋カヲリ@星天出版代表
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