On the border〜知らない世界に会いに行く〜原啓太・渡邉とかげ篇(前編)

作中に登場する職業の方に実際に会いに行き、お仕事の実態をお伺いする「On the border~知らない世界に会いに行く〜」、今回は、作中で、N P O法人日留教育協会職員、森雄太を演じる原啓太と、萩島コミュニティセンター勤務、渡邉タルファンを演じる渡邉とかげが、在留外国人の子どもたちに日本語を教える「N P O法人多文化共生センター東京」にお邪魔してお話を伺ってきました。

多文化共生センター東京の皆様の取り組みは、作中の森くんのお勤め先とまさに一致。タルファンもきっと最初はこういうところで学んだのでしょう。
興味深く、そして、今の日本で暮らす誰もに、知っていてほしい。そんなお話をたくさん伺う時間になりました。



お話を伺った方

枦木 典子(はぜき のりこ)さん
N P O法人多文化共生センター東京代表理事。
元、小学校教員という経歴をお持ちです。


「日本の高校生」をめざして

枦木さん 今ね、ホームルームが始まったところで、10時から日本語の授業が始まります。この「たぶんかフリースクール」というところは、主に自分の国で9年の学校教育を終えて日本に来た外国にルーツを持つ子どもたちの学ぶ場所です。みな、日本の高校に入りたいという希望を持っています。高校入試、高校での学習は日本語ですから、高校生になるハードルは、とても高いです。また、中学校はすでに卒業している年齢なので、日本語を含めて「勉強をできる場所」は、どこにもない状況です。この活動が始まって20年くらいになりますけれども、いまだにそういう場所は、ほとんどないという状況です。
ハマカワ(以下、ハ) なるほど、高校入試の準備・・・
枦木さん 生徒は大体、15歳から19歳くらいまでですね、子どもって言っていいのか微妙な年頃ですけれども、若い人たちが高校入学を目指して勉強しています。日本でこれから暮らしていく、ということを考えると高校に入るということが将来の選択肢を広げるという意味でも大事になってきます。
 永住というか、日本でずっと生きていく前提でいらっしゃるんですね。
枦木さん そうですね。今は、4月から勉強を始めているクラスが二つあります。「日本語1」「日本語2」と分かれています。文字からの学習で、ひらがな50音からという初心者のクラスと、少し日本語を勉強したことがあるという人に向けたクラスになっています。それで、もう一つのクラスは、このカレンダーのこの日から・・・
渡邊(以下、渡) 今月の初日から・・・!?
原啓太(以下、原) 8月、1日からですか。
 始まりたてですね!(取材日は8月9日)
枦木さん 随時、みなさん来日してきますので、一定の人数に達したときに新しくクラスを開講するようにしているんですね。今のそのクラスは、ひらがなの清音がやっと終わったところです。というように、レベル別クラスで、まずは、来年の入試を目指しています。
 高校入試って、都内はみんな1月から、でしたでしょうか。
枦木さん 東京は、1月に都立高校で外国籍の生徒のための特別枠入試があるんです。
 帰国枠、みたいなことでしょうか。
枦木さん 帰国とはね、また違うんですよ。そちらは2月にあります。1月の試験は、外国籍で資格審査を受けた人たちです。例えば、中3生は、来日3年以内というような審査があります。その特別枠があるのが、都立高校って200校近くあるんですが、その中で、外国籍の特別枠校は、今は、8校のみです。
 少ないですね・・・
枦木さん とても少なくて、一つの高校で、募集定員20名くらいです。
 ものすごく狭き門なんですね・・・
枦木さん そうですね。よろしければ少し、授業をご覧になられますか?
 よろしいでしょうか・・・?ありがとうございます。お邪魔いたします。

「俳優」たち、お邪魔します

枦木さん こちらが、少し日本語をやっていた人たちのクラスですね。それでこっちが、4月から始めた人たちのクラス。あちらが8月に始まったばかりの、50音をやっているクラスですね。一クラスが8人くらいで、中国、ミャンマー、フィリピン、アフガニスタン、インド、ネパール、日本ととても多国籍な環境です。
 そうなると、日本語がむしろ共通言語のようになったりするんでしょうか。
枦木さん ええ、でも英語の方が通じる人たちもいますね。あとは、中国の人が多かったりすると中国語が飛び交ったりすることもあるので、そういう時は「授業中は母国語禁止だよ」と声掛けしたりもね、します。
 こちら、お声掛けしてお邪魔した方がいいですか?
枦木さん はい、大丈夫ですよ。
 ありがとうございます。・・・失礼しまーす。こんにちは。お邪魔します。
先生 あっ、みなさん、お客さんです!じゃあぜひ、こちらの前に出て、お名前を。自己紹介していただいて。
 え、いいんですかね。えっと。じゃあ。

ホワイトボードに名前を書くハマカワ。皆さん、「ハ、マ、カ、ワ、」と一音ずつ声に出して読んでくださいました。

 みなさん、こんにちは。私の名前は、ハマカワフミエ、といいます。日本で、お芝居をやっている、女性です。
先生 みなさん、「お芝居」わかりますか?

・・・?の空気。

 「ドラマ」はわかりますか?(わかる、それなら、的なリアクション)「ドラマ」を、みなさんの目の前でやるのが、「お芝居」です。英語で言うと、「P L A Y」ですね。今日はみなさんの授業を、少し見学させてください。よろしくお願いします。
みなさん よろしくお願いします。

受講生の皆さんの「よろしくお願いします」の声が、何だか心暖かく感じました。突然の謎の来客の我々のことを、受け入れてくださって、とても嬉しかったです。

ここで、原啓太にバトンタッチ。

 おはようございます。僕の名前は、(ホワイトボードに書く)原啓太、です。僕も、お芝居をやる、俳優です。今日は、お邪魔します。よろしくお願いします。
先生 「俳優」、みんなわかりますか?(原に)漢字で書いていただけますか、中国の子はわかるかと思いますので。
 (ホワイトボードに書く)・・・「俳優」。
先生 中国の子、どうですか?
 あ、こっちの方が通じるのかな・・・(ホワイトボードに書く)「演者」。英語だと「Actor」です。We’re doing theater production in November.よろしくお願いします。
みなさん よろしくお願いします。

バイリンガルの原啓太、英語の発音澱みなし。啓太の英語を聞くとき毎回新鮮に「うぉー、英語だ」とアホみたいに感動してしまうハマカワです。

お次は、渡邉とかげです。

 初めまして。私は・・・(書く)渡邉とかげ、といいます。ここ(ファーストネーム)が、芸名です。えっと・・・Stage nameです。
先生 「芸名」、聞いたことある人いますかー?本名じゃ、ないってことです。
 「とかげ」の意味は・・・こういう・・・(ホワイトボードにイラストを描く)生き物・・・です。
 英語だと、Lizardです。
 よろしくお願いします。
みなさん よろしくお願いします。

渡邉とかげの描くとかげ、描き慣れてる感あり!そしてすごく可愛かった。
写真撮っておけばよかったとちょっと後悔しました。

この後、授業中の3クラス、それぞれ見学しました。
一番初心者向けのクラスでは「わ行」の発音について、「口をすぼめたところからしっかり、Wa、と広げます」と、唇の形から説明されていました。
その次のクラスではなんと「ゆるキャラ」についての授業!ホワイトボードに「くまモン」が貼り付けられ、そこから「熊本県」「ふるさと」「宣伝」などのワードが飛び出します。
もう一つ上のクラスでは、各自課題を解きながら、先生が机間巡視。熟語の漢字書取りを中心に、画数の多い漢字にも挑戦している様子が見受けられました。
そしてロビーの本棚には「キャプテン翼」「ダーリンは外国人」などの漫画がたくさん!日本語に親しめる環境を整えていることが、手に取るようにわかります。
全てのクラス、全ての授業が、最初から最後まで日本語で行われているたぶんかフリースクール荒川校。
高校入学、ひいては高卒後の専門学校、大学進学、就職への道のりの第一歩を踏み締めるような、そんな学びの場がそこにありました。

在留外国人の子どもたちの現状

枦木さん 日本で生活をする在留外国人の方というのは、増え続けています。コロナの影響はあったんですが、2023年現在、300万人を超えているという状況です。東京は特に集中していますので、50万人以上の方が私たちと一緒に生活しています。その中で、子どもたちについて言うとですね、「学ぶ権利」の保障が十分ではありません。教育基本法などで言うと、義務教育は、外国人に関しては日本国籍ではないので、「希望すれば」日本人と同等の義務教育は受けられるとなっています。逆に言うと、自ら希望しなければ、教育につながらない、家にいるという外国籍の子どもたちの状況が続いています。不就学といいますが、この状況にいる子どもたちが相当数います。東京は全国でダントツです。ただ調べ方自体、正確と言い切れないところはありますが。この国の実情として、教育制度の外で放置されている子どもたちが、東京含め、相当数いるのです。日本は、国際人権規約や子どもの権利条約など、人権にかかわる条約に批准していますが、実際は子どもたちが学びたくても学べない実情があるのです。教育相談に区の受付に行っても「日本語ができないと日本の学校は厳しいですよ」と言われて、家にいるしかできず、「どうしたらいいでしょうか」というような相談を受けることも多くありました。
 日本語がわからない中とりあえず地域の学校に行って、1時間目から5時間目まで体だけ出しておくけど何もできない時間を過ごす、か、自宅で自習するかの二択になってしまうということでしょうか。
枦木さん そうですね。ただ日本語の学習という点で考えると、子どもが、自宅で自学ということはほぼできないと思います。
 難しいですよね、日本語の学習は・・・
枦木さん 保護者の方も日本語ができる方ばかりというわけではなくて、仕事や生活で苦労されています。地域と交流がなく、家にいるという子どももとても、多いですね。行政も、支援の体制は、区によって違いますが、少しずつ改善が進んではいますが、間に合っていない現状があります。日本に来て、大切な子どもの時代、そして、多感な思春期を過ごす時に、学びから疎外された環境にいる子どもたちがいる状況が、ずっと続いています。学校に通う外国籍の子どもたちについては、文科省や自治体で調べた数字がありますが、ここ(たぶんかフリースクール)で学んでいる子どもたちは、この数字にカウントは、されていないんです。
 えっ、カウントされていない・・・?
枦木さん ええ。学校に、在籍していないので。
 ああ・・・透明になってしまっているんですね・・・そうか・・・
枦木さん 見えない数の子どもたちが、いるんです。統計から漏れてしまっている。グラフでわかる数の外側に、たくさん、望んでいることが叶えられない人たちがいるんですね。
 今後、減ることはないと考えていいんでしょうか。増え続ける方向であると。
枦木さん そうですね。国の方針もありますし、日本自体、少子高齢化で外国から来ていただいた人と一緒に働く、地域を創るということは進むと思います。だからこそ、日本の社会が変わっていかないと、難しい状況になると思います。ここは教育の場ですけれども、難民の方々の人権とか、問題は各方面に様々あります。「日本に来てよかったね」と思ってもらえる街や国であるのだろうかという点については、問われているのではないかと思います。
 現状では、国の機関だったり公立の施設はなくて、こちらのようにN P Oであったり民間がそういった学びの場を提供している、っていう状況なんでしょうか。
枦木さん そうですね、あの、今「学校に入りたい」って言って断られるということ自体は、以前より少なくなっていると思います。けれど、入った学校で、日本語を母語としない子どもたちが、何もわからない中で、一クラス30人40人の日本人が多いクラスに入り、授業を受けるのは、とてもハードルが高いですよね。そこにいく前に、少しプレ的に日本語の勉強をして入っていければある程度ついていけるということはあります。支援体制自体、「どの区に住むのがいいですか」って訊かれるくらい地域によって差があるのも事実です。
 受け入れ体制に差がある、という。
枦木さん そうです。受け入れ体制が整っている区だと学校生活に早く適応しやすい、学力をつけやすいことにつながるということはあります。集住地域と呼ばれる、例えば愛知県の豊田市、日系ブラジル人の方の多い群馬県大泉町、岐阜県可児市、神奈川県など、進んでいる自治体があります。
 作品のモデルの一部になっているのがまさにその大泉町なんです。
 日伯学園っていう、ブラジル系の子達を受け入れる学校が、昨年か、休校という形で閉まったみたいで。そこがなくなったことで通っていた子どもたちは他の街まで通いに行かなきゃいけなくなった、っていうのを読んだんです。大泉町はブラジル人のコミュニティがあることは有名ですし、相当に人数もいたと思うんです。が、コロナ禍からの資金難があるということで、そういう(閉校)状況が起きることがあるんだな、というのを知って、驚きを感じて。というのは、現状としてこういった(在留外国人の増加)数字がある・・・なのに、そこに、逆行してるというか。支援を受けられないために閉校せざるを得ない、というのが、驚きがありました。
枦木さん 続けていくためには、支援、資金が必要です。
 こちらも何度か移転などはしていらっしゃると沿革で拝見したんですが。
枦木さん ここは、今は民間で借りていて固定費が発生しているんですが、その前は荒川区の廃校になった校舎を、新しい計画が始まるまでの間という約束で借りていました。新しい計画が持ち上がったら退去して、次の廃校へ移転ということを何度か繰り返して。現在は、もう次の施設が見つからなくて、民間から借りることになりました。
 ちょっと塾みたいな趣ですよね。
枦木さん そうですね。ただ、ここに入るのにも、こういう物件をたくさん探しました。いくつもの不動産屋さんに紹介してもらい、40カ所以上検討したあと、やっと決まりました。
 区とかからの手助けとかはなかったんでしょうか。
枦木さん もちろん区の担当の方にも紹介していただくことがありましたが、環境や運営条件などとなかなか条件が折り合わないことがありました。
 マッチングが難しかったのですね。
枦木さん そうですね、たくさん探す中で、こういう目的で、こういう外国の子たちが出入りして、ということを不動産屋さんに伝えると「外国のひとは、ちょっと・・・」「オーナーに確認します」と言われ断られてしまうことが、何件もありました。「想定していないと大家さんが言ってます」とも言われました。
 「想定してなかった」と言われてしまったら、なんというか「じゃあ今から想定して考えてくれませんか」と言いたくなってしまいますね。
枦木さん 差別、ということに関してはここに通う若い子達も直面して、傷ついていることがあります。肌の色のことを言われたり、自分が電車の座席に座った時、避けられて、周りから人がいなくなったりなど。そういう経験をしたという話を聞きます。
 こちらの学校がもう20年ほど続いている、ということでしたけれど、その20年の間で何か社会の方に、人々の考え方の方に変化が生まれてきた、と感じたことはありますか?
枦木さん そうですね、学校にそもそも入れない人がいるというのが、まずおかしい話ですが、こちらでは15歳以下の人も状況に応じて受け入れ、日本語を少し勉強してから、一緒に行政の窓口に行き「入れてください」ということがありました。今は「学校に入れてもらえないんです」という内容の相談は、少ないです。不就学児童生徒の存在がメディアでも取り上げられ、文科省などの調査も進み、学校教育の中での外国籍生徒の学びの改善の必要性が、認識されてきたと思います。
 子どもの学ぶ権利、というものじたいが認識され始めたということですね。
枦木さん そうですね。こういう子どもたちがいる、ということ自体が、以前はほとんど知られていなかったと思います。当事者の皆さんが声を上げにくいということも大きいと思うのですが、行政がきちんと対応していくというのは必要です。それとね、高校に入ることの難しさはもちろんそうなのですけれど、入った後も大変で。特に漢字のない国から来た子ども達は、本当に大変です。
 中国や韓国の子たちは多少学習に有利だったり、とかはあるんですか?
枦木さん そうですね、発音などに関しては別ですが、漢字を見て意味を把握することに関しては、予想できます。ただ、本当に漢字のない国の人たちや、アラビア語のように右から左に書いていく文字の国から来た人たちは、とても苦労しています。絵のように見えるといった生徒がいます。
 教わっても、目が慣れないでしょうね、どうしてもつい右から追ってしまいそうですね・・・わかっていても。
 そういった言語の壁の中で、高校に入った後も集団に、日本の集団の文化的な面にも、慣れていかなくてはいけないわけですよね。
枦木さん そうです、例えばイスラム教の子とかであればラマダン(断食)の時や、一日何回かあるお祈りの時間などは、ここでは、この床に敷物を敷いて、お祈りしています。あと、よくあるのは、小中学校で「肌を見せてはいけない」という戒律で、プールの授業に出にくいこともあります。今は多様性ということもあって、長袖のユニフォームを選べるようになったりとか、そういう点は少し、変わってきてはいます。いろんな国の文化を持つ人たちと接し、一緒に地域の中で暮らすことで、私たち自身が本当に多様な世界を知り、学ぶことになるんですよね。学ぶことは、変わることにつながります。日本は、同質性を大事にするところがありますから、そこが嫌だという人もいるはずなんですよね。無理に合わせていたようなところが、変わっていくのかなというふうに思っています。私は、以前、小学校の教員をしていましたが、その時は、それこそ「前へならえ」とかピシッと並んでと教えていたことがあります。
 (腰に手を当てて)私実はこれやったことない。
 私、後ろだったー。
 チビだけどクラスに一人はこれやる人がね、いたから!
枦木さん ふふふふ。
 背の順、懐かしい。
枦木さん それこそね、なんで背の順なの?っていうね。
 そうですよね。
 そう言うものだ、っていう思い込みがあるかもしれませんよね。
枦木さん あとは思い込みというところでいうと、名簿もね、必ず男子が先だったりしますよね。今は混合に変わって来ているんですけれども、男女別で慣れていた先生たちの中には、まだ、混合の名簿に戸惑う、というのはあるようです。あとは、朝礼とかあるじゃないですか。日本は全体で整列してピシッと並んで、校長先生のお話を、となりますけれど、国によっては整列なんかしていなくて、好きに集まって好きなように居て、聞ければいい、というような国もあるんですね。
 ええ、いいなぁー、そっちの方がいいなぁ・・・
枦木さん こういうの、この国のやり方や価値感だけしか知らないから、と言うところがあると思うんですね。知らないから、ひとつのやり方に当てはめていくしかなくなっているという。
 なるほど・・・多様性が教えてくれる、新しい世界、新しいやり方っていうのがあるんですね。



後編に続きます。
次回をお楽しみに!

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