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夏と寄生虫博物館と

この季節。
上京してまもない頃、好きな小説に登場する
とある寄生虫博物館に行ったことがある。
初めて降りる駅から初めて乗るバスに乗り継いだ。
バスの窓から高そうな住宅街と整備された自然を眺めていた。

小説の中でもデートスポットになっていることに驚きを隠せない表現があったが、実際自分が行った時も3、4組ほどカップルらしいペアが居て驚いた事を覚えている。

小説に出てくる登場人物が身につけていたキーホルダーを購入する。巡礼とコレが目的だった。
博物館はコンパクトな作りで、話し相手が居ない自分が見て回るのにさほど時間はかからなかった。

さて帰ろうとした時、自分が乗ってきたバス停が見当たらない事に気づく。迷子だ。

その日は他に予定もなく、1人だった為あたりを散歩することにした。

綺麗な建物が好きな私はいつの間にか住宅街のあたりに迷い込んでいて、そろそろ引き返さないとまずいかもしれない、と思った時には手遅れだった。

ベンチに座って仕方なくアプリの地図を眺めてみるが、上京したての自分にとっては混乱材料が増えてしまうだけだった。
情けなく思いつつとりあえず自然を感じながらぼーっとしていると、50代半ばくらいの男性に話しかけられた。

もしかして道に迷っていますか?
と。俳優のような彫りの深い顔立ち、丁寧な言葉遣いと綺麗な所作が印象的だった。
育ちの良さ、とか言うけどやはり環境が良いことと心の余裕から来るのだろうか…とか
東京のおじさまってみんな俳優さんみたいなのか…?とか
これはトラブルに巻き込まれるだろうか…とか考えつつ素直に迷っている事を伝えた。

どこに行った帰りですか?と聞かれ、少々戸惑いつつも寄生虫博物館に行った事を伝える。

男性は私が1人で寄生虫博物館に行ったことに驚いたようで、理由を尋ねてきた。
そこから私の好きな小説に出てくる事、
登場人物と同じキーホルダーが欲しかった事、
小説の内容、
自分が上京して間もないことなどを話した。

男性はずっとにこやかに話を聞いてくれながら
私をバス停まで案内してくれた。

駅まで乗り換えなしで行けるから大丈夫だと教えてもらった。
感謝を伝えて男性と別れた。

恋する寄生虫

この本を開く度に思い出す夏の話。

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