閉会式の雨は、本当は恵みの雨だった
演出に込められた想いとは?恵みの雨と太陽は樹を育てレガシーを残こす。
東京へ繋がるリオ五輪の閉会式。東京の約8分におよぶプレゼンテーションは世界的にも好評で待ち遠しくなってきましたね。実はこの閉会式で、是非もう1つ観てもらいたい演出があります。それは最後に聖火が消えるパート。 いやあ、本当に感動した。
会も終わりに近づき…アンソニー・ハウ氏が作ったこのキネティックアートの聖火台。太陽を意味するこのエコな聖火台が輝く。まもなく消えようとする時に、ブラジルの歌手マリエーニ・ヂ・カストロが登場。天井からは大粒の雨が降り注ぐ。歌う曲はマリーザ・モンチ「Pelo Tempo Que Durar(時の続く限り)」。
雨が降り注ぐ中、煌煌ときらめく聖火台の光。
雨はさらに激しくふりそそぐが、歌は続く。
実際に閉会式は珍しく雨の中での開催だった。
まさにこの演出を手助けするような雨。
そしてソロパートを歌い終わると同時に
聖火の炎が消える。
その後、歌は続きながら、ワイヤーでできた大樹がスタジアムに大きくできあがる。先ほどまで群舞していたダンサーはすべて緑に。
その楽曲が最後にエンディングを迎えるときに、花火が舞い上がり、炎は夜空に消えた。
【この太陽の光と、恵みの雨は、生命たる樹を育て、そして時の続く限りレガシーとなる。】
最高だ。なんとも、このシンプルな演出に。本当に涙した。
閉会式のクライマックスは炎が消えるパート。過去の閉会式でもこの部分は様々な演出で終わり行く祭を表現し好きな部分だったのですが…これまで「雨」で消すという演出の発想は無かった。不運と思われた閉会式の雨はこの演出に結果、華を添えた。緑にふりそそぐ恵みの雨になった。
この閉会式。実は開会式としっかり導線ができているなと思った。
この大会スローガンは「A NEW WORLD」。ブラジルは他民族国家であり、そしてアマゾンという酸素を作り出す地球にとっては重要な緑を抱え持っている国家でもある。そしてテロが頻発する世の中に対して「認める」「育てる」というメッセージを明確に打ち出している。
開会式の時には、選手には207種の種がそれぞれに渡され、入場後に彼らは専用ポッドに種を植え付けた。リオのデオドロ地区にて選手の森としてこの植物たちは育てられる予定らしい。
どうにもこうにも「誰が出演した!」「サプライズがあった!」ということが目立ってしまうのは仕方ないのですが、すべての演出はメッセージ。限られた予算の中で、いかにこれらを表現するか?にクリエイター達は心血を注いだことだろう。
ちなみに勘ぐりの類なんですが・・・聖火が消えるときに歌手マリエーニ・ヂ・カストが歌った「Pelo Tempo Que Durar(時の続く限り)」という楽曲。美しい楽曲ですよね。この楽曲。そもそもはマリーザ・モンチさんという歌手のアルバムに入っているのです。
オリジナルのアルバム版を聴くと和楽器の琴を使用しているんですね!残念ながら今回の閉会式演奏では琴は使われてなかったのですが、日本とブラジル音楽がこんな風に組み合わさるとはまさに架け橋となる楽曲だったのかもしれません。
リオオリンピック公式サイトではSNSでこの歌が流れた瞬間にこのような更新がなされました。
Singing about ‘the time we have left,’ chanteuse Marisa Monte describes the impermanence of life and nature’s constant change. She sings as the Olympic flame is extinguished with an even larger deluge falls from the rafters. Remember what we told you about ‘saudade,’ that intangible, untranslatable Portuguese word meaning longing and loss, all wrapped in love and memory? Well, it starts now.
そう、このポルトガル語の「Saudade(サウダージ)」という表現。Wikiでも郷愁、憧憬、思慕、切なさと書いてありますが、複雑なもので日本語では単純には訳しきれないのでしょう。まさにこの演出はそのサウダージな感情を感じさせつつも、未来へと繋がる素敵なシーンだった。
寂しさと新しいスタート。そのリオの複雑な心情を表現しているのではないでしょうか?
さあ、東京です。僕たちの番です。