教育隊であった女性自衛官達のもめ事①
私が教育隊で女性自衛官(当時は婦人自衛官)の区隊長として勤務していた頃の話です。
当時、40代のオジサンとは言え、私も男ですからね...
「若い女性自衛官の教育を担当する」ということで、少々浮かれ気味だったような気がします。
そんな浮かれ気分は、わずか1ヶ月半で打ち崩されてしまいました。
もう定年もしたことですし、二度とピチピチの女性に「教育する」って大それた機会はないでしょう。
少し残念かというと...全く残念だと思うことははありません。
あの数件の事件を経験してからは、「女性自衛官とは関わり合いたくない」とトラウマになってしまったのです。(笑)
入隊してきた女性自衛官は”かわいい”わがままベイビーちゃんだった。
まだ区隊長として浮かれ気分だったころに事件は起きました。
ある女性自衛官から「区隊長、A2士が死にたいって独り言をブツブツ言ってます。」との報告がありました。
マジかぁ~
私の浅はかな自衛隊生活において、自殺してしまった同僚は何人もいますが、「死にたい」といっている隊員に直面したことは初めてのことでした。
A2士は、目がクリッとした美少女です。
今思えば、女優の橋本環奈さんにも似ている美少女でした。
しかし、彼女はことあるたびに「足が痛い」「頭が痛い」と言い出しては訓練不参加となっている問題児です。
また、彼女は集合時間に遅れることも日常茶飯事、清掃などもサボり癖があるという担当班長から報告も受けて知っています。
最初は「A2士、大丈夫? 無理しないでね」なんて同期達から優しく声をかけてもらっていたり、アドバイスを受けていたりしていたそうなのです。
しかし、彼女自身が改善する気配が見られないこともあり、訓練が厳しくなっていくにつれて同期達からの風当たりが強くなっていったそうです。
テレビのダイエット企画で、複数の男女が共同生活しながらダイエットをしていくという番組をご覧になったことありますか?
毎回、メンバーの一員である「わがままちゃん」が、トレーニングをサボったり、食事の準備をサボったり、隠れて間食してバレて喧嘩になるパターンの番組なのですが...
まさにA2士こそが、テレビに出てくる「わがままちゃん」とピッタリのイメージです。
”女性自衛官あるある”
「そのうち揉め出すんだろうなぁ...」と覚悟はしていたのですが、まさか「死にたい」と言い出すとは経験が少ない私には仰天するほかありませんでした。
とは言え、放置するわけにはいきません。
居室へ行ってみると、ベッドに腰を掛けてうつむいているA2士の姿があります。
A2士から話を聞いてみると「同じ班の同期隊員達に無視されている」とのこと。
医官に連絡して、即日受診もさせました。
診断結果は「適応障害」
うぅ...微妙すぎる。
ベテランの担当班長に相談すると、こんな事例は毎期毎ある「女性自衛官あるある」なんだそうです。
女性自衛官(新隊員)の実態
A2士以外の同期隊員達にも事情を聞いてみます。
担当班長から様子を逐次聞いていたので、だいたい彼女たちの言い分は想像がつきます。
「訓練が始まる前は暗い顔して○○が痛いというが、訓練が終わると楽しそうに笑っておしゃべりしている。」
「入隊当初にB2士やC2士の悪口を他の班の隊員達に言い回っている。」
「居室に帰ってくると、さっきまで楽しそうに話していた他の班の子の悪口を言う。」
「武器の手入れの手順を覚えていなく、手伝っていると自分たちの時間が無くなってしまう。」
「掃除は楽なところ(居室)しか、やろうとしない。」
「不平や不満ばかりを言う。」
「悪いところを注意してみたが、改善しようとする意欲が見られない。」
出てくる出てくる。(笑)
A4サイズのメモ書きがぎっしりと埋まってしまうほどの量です。
担当班長からの報告と照合しても、彼女たちの言い分に取り繕いや嘘はなさそうです。
どうしたらいいものか、思案のしどころです。
私はA2士を今の「わがままがまかり通る状態」で部隊に送ってしまうと、配属先に迷惑がかかると考えて「A2士、退職やむなし!」と強い姿勢で臨むことに決めました。
甘やかせるのも、ここまでです。(今だとパワハラになるんですかね?)
A2士と面接を行って、メモしておいた同期隊員達の言い分を全て言って聞かせてみました。
A2士はポロポロと涙をこぼしながら、「身に覚えがない」と主張します。
「A2士、退職やむなし!」と決めたからには、美少女の涙にも負けていられません。
A4用紙いっぱいの悪口を説教しながら一つ一つ読み上げました。
「君には身に覚えがないのかもしれないが、同期達が君をこのように思っているのは事実だぞ。」
「どうする?悪いと言われているところを直すか?それとも...」
「おそらく、このままでは自衛隊を続けられないぞ。」
もうヤケクソも入って、A2士を辞めさせる気満々です。
「...直します」
小さな声でA2士がささやきました。
えっ、マジか!
A2士は泣きながら「自分の悪いところを直す」と言い切りました。
そうなると、退職の話はチャラです。
同じ班の同期隊員達と悪口を言われたという他の班の同期隊員、それとA2士を集合させました。
私は全員の前で
・聴取した同期隊員達の不満などを全てA2士に話したこと。
・A2士は自分自身の悪いところを受け入れて、「修正していくよう頑張る」と誓ったこと。
を説明しました。
さらに、「今までのことは私に免じて、A2士を許してあげて欲しい」といった旨を話しました。
全てを納得している訳ではないのでしょうが、その場にいる全員がA2士を許して、同期隊員としてもう一度普通に接してくれることを約束してくれたのです。
それからのA2士は見違えるようでした。
体調不良を理由に訓練を休むこともなくなり、同期達とは良好な関係を再構築していきました。
時々、同期隊員を呼び止めてA2士の近況を聞いていたのですが、評判は上々です。
悪口や不平不満を言うこともなくなったそうです。
その後、他の女性自衛官のイジメの話に少しだけ首を突っ込んだ気配がありましたが、無事に教育隊を卒業していきました。
数年後に、A2士は3曹に昇任したという噂を聞きました。
おそらく、あのときの説教?でA2士には嫌われてしまったと思っています。
仕事とは言え、美少女に嫌われてしまったのは残念ですが、ヤケクソでも精一杯の誠意で彼女たちに接してきました。
結果としては、たまたまかもしれませんが、A2士は同期達との仲も改善でき立派な自衛官となって卒業していきました。
やった甲斐はあったと思っています。
「Aさんは、今でも元気に頑張っているのかな~」なんて久しぶりに思いをはせてみました。
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