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その空気を醸し出すのは誰か
前回のコラムでは、新人スタッフであれ認知症当事者であれ、既に不安を抱えている相手に対しては、その不安を増長させるのではなく、少しでも軽減させてあげるような関わり方が上長や周囲の人たちには必要、という話をしました。
これは、ここ最近良く言われている「心理的安全性」というキーワードに当たるものなのですが、単なるお題目になってしまっていても意味がないのですよね。
よく会議でも見かける光景なのですが、これまでも何か発言をすると、皆の前で上長に否定されたり叱責されたりする場面が多くあったため、参加者たちは徐々に発言を控えるようになっていきます。
そういう空気感になった時に、こういう上長は「何で皆はもっと発言をしないんだ」、「もっと活発な意見を言い合えるような場にする必要がある」なんてことを言い出したりします。
これらを言う上長には、まったくもって他意はないと思います。
そして、言っている内容自体も確かに前向きで素晴らしいことです。
ところが、会議において突然上長がこういうことを言い出しますと、部下たちは上長に気づかれないようにそっと目配せをし合ったりします。
部下の気持ちとしては、「いやいや何を言っているんだよ」「そんなこと言われたって、誰も素直に意見なんか述べられるわけないでしょ」といったところでしょうか。
いざそれをやった時の反応が穏やかなものではない想像ができてしまうと、意見を述べる側の心理としては躊躇せざるをえません。
「お母さん絶対に怒らないから、何をやったのか言ってごらんなさい」と言われた子供の心理と同じですよね。
「本当に絶対に絶対の絶対に怒らない?」なんて何度も確認したところで、いざ告白すると結局怒られてしまうというあのパターンですよね。
こんなことを繰り返していたら、いつまで経っても誰もが意見を述べ合うような会議の開催はできません。
「どんどん意見を言ってくれ」「何でも訊いてくれ」、これらを言うのは簡単ですが、部下たちからしたら信じているのはその上長のセリフではなくて、上長の日頃の言動です。
朝は仏頂面で不機嫌、その機嫌もコロコロ変わる、キレるポイントがどこなのか分かりにくい、イライラしていて近づきにくい、目つきが悪い、顔が怖い、態度が粗雑、言葉が乱暴。
部下が近づきにくく、意見を言いづらい言動を日頃から積み重ねているから、いざ会議の場においてだけ「何でも言ってくれ」と言われたって、言う側だって言うに言えないのです。
何でも発言して欲しかったら、まずは上長自身が普段から周囲の皆が近づきやすい空気感を醸し出すための意識と行動が伴う必要があると思っています。
決して迎合した方がいいという意味でもありません。
それでも、「この人は何を言っても、どんな態度をとったとしても大丈夫」と相手が信じてくれた時に、初めて正直ベースで話し合える関係性が構築できるのだと信じています。
同じ時間を長く過ごした上司と部下との間には、こうした空気感が醸し出されますが、その空気はどのように生成されてきたのでしょうか。
「近づいてきても大丈夫だぞ」と言葉と態度で常に発信し続けるのは、部下を預かった上長の側が選んだ在り方ですし、「この部下とどのような関係でいたいか」という上長の意志から発現した部下との関係性の築き方や姿勢の問題だと思っています。
いつまで経っても会議で活発な意見交換がなかったり、参加メンバーが下を向いたまま誰も発言しなかったりするのは、きっと無意識だったとしても結局はいつまで経っても変わらないまま、部下に圧を与え続けている上長自身がいるからです。
部下たちからしたら、「もっと活発な意見を出せ」と言うからには、まずは上司であるあなたの方が部下がそうしたいと思うような空気を常日頃からつくり出しておいてくれ、というのが答えになるのではないでしょうか。
今日も読んでくださいまして、ありがとうございます。
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