アウラの香り
東欧の風が紡いだ刺繍尽くしのドレス。
袴星人が大量発生する中、これを纏うと誓った。
「痩せるか買い直すか、どうするの?」
母に聞かれた。うぅ、心が痛いよ。
せっかく買ってもらった卒業式のドレスは、
このワガママボディーが原因で、
今もクローゼットの中で泣いている。
いや、卒業式までに痩せる予定だったんだよ?
だけど無理だよ。いきなりモデル体型なんて。
高いお金を出してくれた母には言えないが、
着れない以上に、着たくない理由がある。
今しか買えないから!そう懇願したこのドレス。
けれど、あれから何度も再販をしていて、
インスタを開くたびに、この広告が流れてくる。
一般人から有名人まで、みんな着ているの。
「インスタで見た!」とか1番言われたくないモン…
素敵なドレスには変わらないのだけれど、
この服のアウラは完全に消滅した。
初めて古着に手を伸ばした中学生の頃から、
ひっそりとお店の壁に佇む1着のドレス。
遠くへ嫁ぐ娘のために、心を込めて刺繍をして、
娘から孫へ、孫から曾孫へと受け継がれ、
何十年もの時を経て、海を渡りここにいる。
この荘厳な詩集に触れる度、遥か彼方の東欧が、
今ここに現れたような気持ちになる。
だから、お年玉を全部使って、お迎えした。
唯一無二のアウラが背中を押すように。
アウラの香りで、前へ進めるように。