「わたしがお嫁に行くときは、この筆で紅をさしてね」
なんて、3歳の次女がいうわけはないんですけども。
長女が生まれたころ、友人からこんな話を聞きました。
「こないだね、友達の結婚式に行ったの。
その友達はね、結婚式が始まる前に、お母さんに口紅を塗ってもらったんだって。
赤ちゃんのときに初めて切った髪で作った紅筆で」
な、なにその感動的な儀式は…!!
そんなシーン、想像しただけで泣いちゃう。
初めて切った髪の毛で作る筆を、胎毛筆というらしい。
美容院で「赤ちゃんの筆」が作れることは知っていたけど、
「それ作っていつ使うの?書道で使っちゃうの?墨汁つけちゃうの?」
とか思っていて、正直たいして興味ありませんでした。
そもそも使うものというよりは記念品なんだろうけど、
そういえば、私の筆もあるらしくて母に見せてもらったような…あれどこにあるんだろう。
って、私にとってはそのくらいの記念品になっちゃってますし。
しかし、「嫁入りする娘に紅を差す儀式」の存在を知るやいなや、
「それ、やりたい!我が子の紅筆作るわ」
と目を輝かせてしまいました。
そして、初めて切った長女の髪で作った紅筆がこちら。
長女はなかなかの薄毛ちゃんだったので、筆を作るのに必要な毛量で切れたのは2歳でした。
せっかく女の子らしく伸びたのに、もったいない…
という思いもありつつ。
でも、5年経ったいまでも当時の感情が鮮明によみがえってきます。
ひとりでおとなしく座って切れたんだよなぁ。
フライパンのおもちゃを握りしめて、ちょっと不安げな顔してたなぁ。
前髪を切るときにびっくりして眼をぎゅっとつぶる仕草がかわいかったなぁ。
そして、今年は次女の筆を作るべく、髪を切りました。
次女は、薄毛ちゃんだった長女とは対照的なフサフサちゃん。
顔はそっくりなのに髪質ちがうのふしぎ。
次女は、生まれてから3年9ヶ月、一度も切らずに後ろ髪を伸ばし続けました。
伸ばすことに、こだわりがあったわけではないんです。
ただ、なんとなく切るタイミングを失っていました。
そのうちだんだん惜しくなり、三つ編みやおだんごがトレードマークになり、気付けば腰まで伸び、ときにひどく絡まる髪…
そろそろ切らねば。
でも、あまりに惜しくて、カメラマンの友人に出張してもらい、ファーストカットの様子を写真に残してもらいました。
はたして私は、娘ふたりの嫁入りで、紅をさせるだろうか。
早くてもきっと20年後ぐらいかな。
それまで私は、生きていられるだろうか。
娘たちは、良い人と出会って結婚できるだろうか。
令和のご時世、結婚しない選択も、式を挙げない選択も全然ありだしな。
娘たちは、私が紅をさすことを受け入れてくれるだろうか。
触れ合える親子関係が、20年後までずっと続いているだろうか。
そんなふうに考えていると、あまりにハードルが高い夢のように思えます。
私が夢見ているだけで、ただの親のエゴかもしれない。
ただ私は、娘たちのふわふわの髪の毛の感触を生涯忘れないだろうし、
初めて髪を切ったときのことも、きっと忘れないでしょう。
「大きくなったね。きれいになったね。
この筆を作ったときは、あんなにふわふわで小さかったのにね」
そんな台詞を言える日が来るよう、娘たちをしっかり育てよう。
そしてできれば、大きな人生の節目に、母の役割をひとつ与えてもらおうかなー、なんて、結局は「あわよくば精神」を前面に押し出してしまう母なのでした…。
photo by coma