統合失調症の私が伝えたい5つの事Vol60
ここで、私の半生を振り返った文章を書くのは、いったん終わりにしたい。明日からは、私が、統合失調症の当事者や家族、そして周囲の人に伝えたいことを書いていきたい(そこからが『統合失調症の私が伝えたい5つの事』になるのかもしれな))半生を振り返った区切りとして、「終わりに」というタイトルで、文章を書いたが、これで終わりではない。明日からも私の伝えたいことを書いていきたい。
79 終わりに
この本を書くことは、私にとって、とても勇気のいることだった。それは、自分自身と向き合うことだったからだ。そして、この本を書くことによって、誰かを傷つけるのではないかという怖れもあった。その怖れから、この本の中に出てくる人物を、私を含め、ほぼ仮名にした。
「自分自身と向き合うこと」
それは、時に苦しみを伴った。特に発病して、入退院を繰り返すあたりは、辛かった。息子たちと会えなかった期間の事を思い出すのも辛かった。
でも、それは、うまくは言えないのだけど、私自身の“再生”の作業でもあった。自分自身の再生だ。
”過去”の記憶をたどることで、私の意識は、“今”にフォーカスすることができ、そして、“未来”へと向かうことができた。
私自身も、そして私の家族も、統合失調症という診断を受けた時は、絶望の淵に落とされたような気がした。
統合失調症と聞くと、
「犯罪を引き起こす怖い病気」
「治る見込みのない悲惨な病気」
といった暗いイメージがある。
でも本文にも書いたが、統合失調症は、約100人に一人が罹患する病気と言われている。決して珍しい病気ではないのだ。
統合失調症に罹患した当事者としての、私なりのメッセージを苦しんでいる人たちに発信したいと思って、私はこの本を書いた。真っ暗なトンネルの中にいても、必ず出口はあるのだ。光の差すところはあるのだ。どうか歩みを止めないで欲しい。
辛かったら、「辛い!」と言えばいい。助けが欲しかったら、「助けて!」と叫べばいい。泣きたかったら、思い切り泣けばいい。あなたを必要としている人は、必ずいるのだ。そう、あなたはそこに存在していいのだ。
今まで私を支えてくれた、丸井先生や、前川さん、まるいクリニックのスタッフの皆さんには、感謝している。特に前川さんは、アップダウンの激しい私に、約10年間も寄り添ってくださった。それは、一スタッフという域を超えた支えだった。心から感謝している。
また、一昨年からご縁をいただき、カウンセリングを受けさせていただいている、上倉妙さんにも、本当に感謝している。妙さんは、毎回カウンセリングで、私の内面を深く掘り下げてくださった。物事の捉え方に貴重な気付きを与えてくださった。妙さんのおかげで、伯母の節子との関係は、本当に良くなった。妙さんが私に、私自身の内面と向き合う機会を得させて下さらなければ、私は、この本を書こうとは思わなかったかもしれない。
また、最悪の状態だった私を傍で支えて、そして今も支え続けてくれている、伯母の節子には、心から感謝している。いくら「ありがとう」と言っても言い足りないくらいに感謝している。
そして、病気になる前も、なってからも変わらずに私に接してくれる、やよいをはじめ、友人たちにも感謝している。特に、やよいには、本当に迷惑をかけた。それでも友人として、私を励まし続けてくれている。時には、本気で叱ってもくれる。ありがたい存在だ。
私をこの世に生み落としてくれた母。厳しくも優しく、愛情をもって育ててくれた母。二人の母にも感謝している。
「ありがとう」という言葉をもう伝えられない、天国へと旅立った父。父には、
「心配や迷惑をいっぱいかけて、本当にごめんなさい」
と、心から詫びたい。
「見ていて。私ちゃんと生きていくから」
と、いうメッセージを伝えたい。そして、自分なりに、一生懸命に生きていきたい。
また、私を母に選んで生まれてきてくれて、私に「愛」というものを教え続けてくれている、二人の息子たちにも、心から感謝したい。幼い頃に、母親が精神病院への入退院を繰り返すという、辛い経験をした息子たち。どれほど不安で、どれほど心細かったことだろう・・・それぞれの道で、精いっぱい生きている息子たちに、
「お母さんも、頑張っているからね」
「二人の事を心から愛しているからね」
と、メッセージを伝えたい。そして、二人に誇れるような人生を生きていきたい。
振り返れば、本当にたくさんの人に支えていただいて、生きてこられた。そう、人は一人では生きていけない。
この本の中で書いたように、
・信頼できる医師を見つけて、治療を続けること。
・(私の場合は、作業療法士だったが)病院のスタッフとも信頼関係を築き、何でも相談すること。
・「地域生活支援センターらしく」や「就労移行支援施設アステップ」のような施設があれば、利用すること。
・もし生活保護を受給していて、就労の意欲があるなら、「働きたい」ということをケースワーカーに相談してみること
・統合失調症患者の家族は、悩みを一人で抱え込まないで、頼るところに相談すること
など、周りの支えを求めれば、状況はよくなると思う。統合失調症になったからと言って、終わりではないのだ。幸せに生きていけるのだ。
やまない雨はない。そして明けない闇はない。たとえ一筋の光であっても、その光を頼りに、どうか歩みを止めないで欲しい。光の差す方へと、少しずつでも歩み続けて欲しい。そうすれば、いつか必ず、道は開けると思うのだ。
本著が、一人一人の方の歩みを進めるための一端になれたら・・そんな思いを強く胸に抱いている。
精神疾患も統合失調症も、「違い」の一つに過ぎないと、私は思う。そんな「違い」を排除する社会ではなく、「違いを認め合うことの大切さ」に、皆が気付き、行動していける社会になることを願っている。
最後まで読んでくださって、本当に有り難うございました。
2022年
暮島葉月
参考文献
「ウルトラ図解 統合失調症 理解を深めて病気と共に歩む」
糸川正成 監修
「オープンダイアローグとは何か」
斎藤環 著&訳