統合失調症の私が伝えたい5つの事Vol32
43 自殺未遂
正月が明けて、保は岡山から帰ってきた。そして、
「僕、岡山に帰るわ。東京、無理じゃわ」
と、言った。
(保までいなくなってしまう)
さらに孤独の淵へと突き落とされた気持ちになった。
そんな時、テレビを観ていたら、ある歌手が、睡眠薬と安定剤をオーバードラッグして、病院に運ばれたというニュースが流れた。保は出かけていた。
(そうや。死ねばいいんや。死ねば、この孤独感から逃れられるんや)
私は、少し嬉しくなった。
(そうだ。死のう!)
「マスター、私、死にます。後はよろしく」
そんなメモを残して、私は、家にあった睡眠薬と安定剤を全て飲んだ。
気が付いたら、病院のベッドの上だった。心配そうに私の顔を覗き込む、保の顔が、ぼんやりと見えた。
「良かった。目覚めてくれて良かった」
保が言った。
「ここ、どこ?」
私は聞いた。
「病院じゃ」
「病院?」
「僕が救急車呼んで、病院に運ばれたんよ。大変だったんじゃけえ」
保は言った。
「良かった。葉月ちゃんが生きとって、良かった」
保は泣いた。私は泣けなかった。
(死ねなかった)
と、私は思った。私を助けた保を恨む気すらした。
(何のために、何を目標に、生きろというのだろう?)
私は虚無感に包まれていた。
病院を退院した次の日、私は、節子に電話をかけた。この時まで、節子に離婚したことを伝えられずにいた。すごく節子に心配をかけるし、悲しませると思ったからだ。節子を悲しませたくなかった。
「おばちゃん、私、離婚してん」
「離婚?隆道さんと離婚したんか」
「うん」
「大ちゃんと、亮ちゃんは?」
「岡山にいる」
「ほんなら、葉月ちゃん、今どこにいるの?」
「東京」
「東京って、房恵さんのところか?」
「ううん、違う。一人で暮らしている」
「体が悪いのに、東京で一人で暮らしているなんて・・・」
「・・・・」
「京都に帰っておいで。おばちゃんのとこで、一緒に暮らそう」
「ありがとう!おばちゃん!」
私は、泣きそうになった。
私は、保に、京都に帰ることを告げた
「落ち着いたら、また一緒に暮らそう」
保はそう言って私を抱きしめた。私は冷めた気持ちで、その言葉を聞いた。もう一度保と暮らす気はなかった。私は保を捨てた。そして東京を捨てた。