旅の終着 終章
詠心は輝信の屋敷で生活を始めても二、三日に一度、都を訪れている。以前程の頻度ではないが、やはりずっと建物の中に引き篭もっていられない質なのだ。部屋で書を読むよりも外を歩き回って風を感じるのを好む。
「南西の地はそろそろ紅葉が見頃になるか」
都でも見られるが、その地で知り合った友人との約束があった。以前は黙って旅に出て心配させたが、行き先を示す書き置きをして頻繁に手紙を送れば良いだろう。詠心は一度屋敷に戻った。
「お帰りなさいませ。あれ、またお出掛けですか?」
「ええ、紅葉を見て参ります」
「左様で御座いますか。何時頃お戻りになりますか?」
「十日以内には戻りまする」
「は?」
月守はぽかんとして「はて、十日とはどの刻の事であったか」と呟いた。詠心は答えずそのまま屋敷を出る。
「十日って詠心様!? 輝信様にはお許しいただけたのですか?」
漸く意味を理解した月守が走って追いかけてきた。
「手紙を置いておきました。では行って参ります」
「いえいえいえいえ、お戻りくださいませ。せめて従者をお連れください」
「では月守さんも行きましょう」
「準備をしなくてはなりません。今暫くお待ちくださいませ」
月守は急いで屋敷に戻った。詠心はそれを待たずに歩き出す。一刻も早く行きたいのだ。第一、詠心に対した準備は必要無い。必ずここに戻るのだから良いだろうと月守を置いて目的地に向かった。
八日後、鬼の形相をした輝信にしこたま怒られ、閨での折檻を受けたのはまた別の話である。
〜了〜
これにて完結とさせていただきます。ここまでお読み下さり、ありがとう御座いました。感想、リクエストなどお待ちしております。葉月のツイッター⇒宮野葉月@Haduki_Novel https://twitter.com/Haduki_Novel?s=09
原作はこちら
『非天の華』著 : 葛城 惶
原作…葛城 惶さま(@1962nekomata)
表紙…松本コウさま(@oyakoukoudesu1)
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