KCの試合数を稼ぐ走り方に関する確率的な考察(KC2021 sep反省文)

「今回もモブでした。」

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人権タイム(作詞ぱなせ)

(注意)
この記事は2021年9月KCの反省文としてω’sという遊戯王デュエルリンクスのチーム内で公開するために書いた物です。先日デュエルリンクスのオフ会に参加した際、過去に同様の分析を行って成果を出したと話していた有名プレイヤーがいたので、まあ『分析として有用なら公開しとくか』って気持ちになったのでなんとなく公開します。
デュエルリンクス(KC)の話ではありますが、マスターデュエル(DC)も同様の勝ち越し数を稼ぐフォーマットなので流用可能と考えます。
(ここまで2024年6月1日追記)

試合数を稼ぐ走り方について、自分の中で考えをまとめるために書きました。内容の正確性については保証しませんが、間違いを指摘してもらえれば訂正したいと思います。

1. はじめに

 TCGにおけるデッキ選択は勝敗を決定する重要な要素でリンクスもそれに漏れません。デッキは様々なデータや経験、直感をもとに選択されますが、一般的には確率的な情報、データを活用することが多いと思います。この際主に参照される情報として『対面勝率』と『初動率』が挙げられます。対面勝率は実戦で使用される可能性の高いデッキ間の相性関係を推定するための情報として主に利用されます。対面勝率を理解することで対戦機会の多いと予想されるテーマに対して有利なデッキを用意することができ、メタゲームにおける勝率を高めることに繋がります。また初動率はテーマの安定感を推定するための情報として利用され、初動率の高いデッキを使用することで試合結果の分散をある程度抑えられる(事前に予想したものに近い試合結果が得られやすい)と考えられます。このように確率論的なデータを元にした判断はデッキ選択において重要な要素を占めており、多くのプレイヤーがそれらの情報を前提としてデッキを選択しているということが今回の考察の前提です。

 対面勝率と初動率はあらゆる対戦フォーマットで使用できる指標ですが、KCは72時間での勝ち越し数を競う競技であり、通常の試合数が決まった大会との違いをデッキ選択にも考慮する余地があります。上述の指標からわかるのはそれぞれ選択候補デッキの『想定勝率』と『想定通りの勝率の出しやすさ』と言えますが、現状のKCでは勝率が高く安定したデッキが常に最適解とは限りません。なぜなら仮に100パーセント勝てるデッキを選択した場合であっても、一試合に30分かかるのであれば一時間あたりの勝ち越し数は2試合程度となります。一方で1試合に1分しかかからないデッキであれば、勝率55%でも1時間あたり60試合行い、33勝27敗で6試合分勝ち越すことが出来ます。よって選択候補デッキのKCにおける性能を測る上では、平均試合時間(デッキの早さ)を考慮に入れる必要があることがわかります。

 KCで早いデッキが流行るのは毎度のことであり、デッキの早さの重要性は走り慣れたプレイヤー間ではある程度共通認識があると思います。一方、デッキ選択の際の判断材料としてのデッキの早さが実際のKCの結果にどのような影響を与えるのかについてはあまり考察されていません。そこでデッキ選択における早さの重要性について明らかにするため、総試合数ごとの勝ち越し数(DP)への影響を確率分布を使って分析していきたいと思います。またその結果に対して、モブ(=はづき)がKCで舞うためのデッキ選択についても考察していきます。

2. 平均試合時間を考慮することで何がわかるのか

 1節で述べたように、KCにおける候補デッキの性能を測る際の判断材料として平均試合時間、つまり72時間でどのくらい試合をこなすことができるかを考慮することで従来よりも正しく判断を下すことが可能になるという仮説を立てることが出来ます。では、デッキの早さを測ることで具体的になにがわかるねんというところを簡易化したモデルを使って考えてきたいと思います。ここではKCの試合をそれぞれ独立に勝ち、負けの結果が発生する試行(ベルヌーイ試行)であるという前提を置き、最終的な勝利数の分布を二項分布として扱います。
わかりやすくボーダーに達する勝ち越し確率を求めるために累積分布を求めます。二項分布の累積分布関数は以下らしいです。実際は面倒なので普通にExcelでBINOM.DISTしてます。

累積分布関数

 以下に55%の勝率が期待できるデッキとプレイヤーがKCで300戦した場合の勝利数の累積分布を示します。横軸が勝利数、縦軸がその勝利数以下のプレイヤーの累積分布率です。

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55%のポテンシャルで300試合行った場合の累積分布

確率通り(勝率55%)で試合が行われた場合の勝利数は300×0.55=165勝となりますが、実際には上振れや下振れが発生します。ここで前提とした55%の勝率とはあくまで期待できる能力、つまりデッキとプレイヤーの持っているポテンシャルであり、最終的な結果としての勝率ではないことにご留意ください。300戦で一般的な銀ライン(約65勝勝ち越し、DP65000)を超えるには183勝(最終勝率61%)が求められます。この分布に従うと、55%勝率の実力で183勝ラインを超えるのは全体の3%程度となってしまうため、300試合しかせず55%の実力のプレイヤーは30回KCに参加して一回以下程度しか銀アイコンを取ることができません。


次に、比較のために300~700試合まで行った際の、銀(DP65000)、金(80000)ボーダー到達率を一覧にしました。勝率はすべて55%で表しています。勝率55%程度の実力であっても700戦すればかなり銀アイコンに近づけますし、金アイコンも見えてきます。

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試合数毎のアイコン取得確率
(55%勝率プレイヤー)


勝率(能力)ごとのアイコン到達確率もだしました。試行回数は300回です、300回程度の試行回数では、6割の勝率を出せるポテンシャルを持っていたとしても上振れを引き出さなければ銀アイコンすら怪しいことがわかります。

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考察

 前項で、試行回数ごと、勝率ごとに銀、金アイコンを取るのに必要な勝ち越し数を稼ぐ確率を示しました。これまで早いデッキを使う(=試合数を稼ぐ)ことの重要性についてはある程度プレイヤー間で認識されていましたが、実際にこのように比較することで遅いデッキというのはそれだけで大きなディスアドバンテージであることがわかります。デッキ選択の際には、そのデッキが環境にあっていてトータルで6割出すポテンシャルがある場合でも、300戦でしかこなせないデッキである場合、有用なデッキではない可能性があります。

 ではモブがKCで舞うにはどうすればいいか。モブが突然勝率6割以上の能力を身につけるのは難しいですし、多少頑張って身につくのであれば既にアイコンを取っているはずです。これまで目立たなかった人が長年煮詰めていたマイナーテーマがたまたまあたって高い勝率で金アイコンを取ることもあります。しかしそのようなパターンは狙って起こせるものではなく、再現性に疑問があります。であるならば、もはや500試合出来ないような遅いデッキを握っている場合ではなく、次のKCではワンキルデッキで700試合してボーダーに到達する、モブに残された道はこれしかありません。

 また上記のモデルはかなり簡略化されており、上位マッチングの存在もあることから実際には勝率が常に一定ということはないと思います。しかし高勝率型の走り方でも、上位マッチングで勝率が下がると考えた場合、結局試合数を稼ぐということに関する重要性が大きく変わるほどの影響はないのではないかと現時点では考えています。

 最後に一応断っておきますが、低勝率で数をこなす走り方をしている人をモブとけなす意図は一切ありません。あれはあれで才能だと思います。ただどちらがモブにも真似しやすいか、またデッキ選択のときに彼らの走り方を参考にすべきではないか、試合数を稼ぐためには風呂になど入っている暇はないのではないかというだけの話です。




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