記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

梨さんの依談『カンテサンス』について考えてみた

前にサラッと読んで「うわ〜嫌だなぁ」と思うだけだったけど、今回はじっくり読んで噛みしめてみて「うわ〜、本当に嫌だなぁ」となった感想文を書いていきます。

まだ読んだことない方は、読んできて頂いて……😊

ネタバレしてます。



◆大まかな流れ

入れ子構造がとてもややこしい本作ですが……

✢【私】という人物が話した内容を文章化したものか。(そもそも【私】の存在も込みで創作の文章かもしれない)

✢この文章全部が「カンテサンス文章1」と呼ばれるもので、このtale「カンテサンス」はそれを引用したものである。

↓後の説明で使うために、話のまとまりごとに番号をふりました。

①導入部
「自ら怪異を求めて肝試しをした人物が怖い目に遭う」という因果について。

②「カンテサンス」というサークルの話
・平成初期の東広島市の大学生だった頃の【私】が聞いた噂話
・「対話の憩い カンテサンス」というありきたりな自己啓発サークルについて
・カンテサンスが掲示した気味の悪いポスターについて

③A.B.Cさんの肝試し体験談
・カンテサンスの噂だけが残り、その現場であるというロッジに肝試しに行った男女3人。
・3人は、首が直角に曲がった大男と、カンテサンスのメンバーらしき幽霊と遭遇し逃げ帰る。

④【私】の体験談
・【私】の友人である、A.B.Cさんたちは本来は「日帰りバーベキュー」のために出かけたはずだが、帰ってくると「肝試しに行ってきた」話をしていた。
・【私】を含む友人たちは、何度もその「肝試し」の話を聞くうちに「彼らの話が毎回、一言一句同じ」ことに気づき不気味に思う。
・A.B.Cさんたちが「カンテサンス音声」と書かれたテープをいくつか所持していることを突き止める。

⑤「カンテサンス音声」文字起こし
・Aさんのテープの一部を複製録音することに成功。
(→内容は、NLPやミルトンモデルのような、人間の被暗示性に働きかけ視聴者を変性意識状態に誘導する音声データ)
それの書き起こし文章。

⑥締めくくり
「霊感の有無を調べる心理テスト」について。

◆ゾッとしたポイント

◉読者の立ち位置

・はい。
今作でも、いつものごとく”傍観者から当事者へ”と巻き込まれましたね😊

・”①導入部”で「自ら怪異を求めて肝試しをした人物が怖い目に遭う」という因果について語っているわけですが。

”⑤「カンテサンス音声」文字起こし”で、「あなたはあなたの意志で、肝試しに来た」って言われてしまったし、そもそもtale「カンテサンス」というホラー作品を読んでる時点で、我々は「肝試しをするみたいに、怖い気持ちになりたい」人間なのよね〜……
だから、そんな人間が「怖い目に遭っても仕方がない」んだよね〜😩

・よくある「大学生が肝試しに行って怖い目に遭う」話だと思って、面白がって楽しんでいたら、矛先がいつの間にかこちらを向いて刺される一歩手前……みたいな話。

何気なく読み飛ばしていた冒頭部分が、後になって効いてくるの、さすが梨さん……!
そう、我々は「愚かな行為者」……!

◉ミルトンモデルとは?

・NLPやミルトンモデルって何なのか知らなかったからネットで軽く調べてみた。

NLP(神経言語プログラミング)とは
言葉によって自己意識を”自分が望む結果を出せる”ようにプログラムし直すこと。
真の潜在能力を発揮できるようになることを目指す。

ミルトンモデルとは
NLPで使用するモデルのひとつ。
催眠療法の第一人者として有名なミルトン・エリクソンの巧みな言葉遣いを分析・体系化したもの。

「相手が抵抗せずに(意識の抵抗がおこらず)、無意識レベルで同意をしてくれる」話し方をして、潜在意識に働きかける。

素人なので語弊がある説明になるかもしれないけど、”言葉を用いて、その人を催眠的な状態に持っていって、無意識にセーブしてる能力を開放してあげる”ようなことなのかな。

・ミルトンモデルでは、言葉を意図的に曖昧に使うらしいので、tale「カンテサンス」の内容が「これ、何の話してるんだっけ?」ってなるのは意図的なんでしょうね……

・あと「ミルトンモデルのパターン」で検索してもらうと、このパターンがいくつも、tale「カンテサンス」の全体に織り込まれていることがわかります。

◉読者の頭に刷り込まれたもの

・この作品、文章全体を使って、用意周到に、念入りに、それとなく刷り込んでくるんですよね……

幽霊が出てくる建物の造りとか特徴とかを。

・「A.B.Cさんたちがおかしくなってしまった怖い話」がメインのような顔をしておいて、実はこれが「読者に幽霊が出る家の詳細を想起させる」ための布石だったという……良く出来てるよ😣

・あとソースコード確認してもらうと、文字のサイズが、本っ当に気付かないくらい微妙〜に大きくされてる部分があるんですよ。
私たちの無意識に働きかけて、刷り込もうとしてる😭

「あなたは今、わたしに協力してくれている」
・「その家が自分の家みたいに落ち着く場所だと教えられたことも」
・「対話」
・「何か怖いものと遭うかもしれません」

(文字サイズ変更されてる部分抜粋)

・それにプラスしてこちらの心を読んでるかのような隠し文ね。

「あの人もあなたと同じように、ここに何かあると思っていましたよ」

(ソースコードより)

これも、ミルトンモデルのパターンのひとつだったら、怖さが一周まわって面白いな!
確か、読心とか、伝聞みたいなパターンあったでしょ。

・あと、ミルトンモデルの説明にあったことなんだけど……↓

ミルトンモデルは、言葉を意図的に曖昧に使うことにより、聞き手は自分自身の内的な体験に当てはめてその言葉を解釈する。

これってまんま”⑤「カンテサンス音声」文字起こし”で、家の詳細を無意識に思い浮かべて肝試しを追体験しちゃう、あの現象だよね……?😰

・Qがだんだん男の顔になっていく画像だって、「これが幽霊の顔です!」とは明言してないんだよ。
文章の端々から、勝手に自分の頭が「Qの男=セミナーハウスの幽霊」って結びつけちゃうんだよ😭
嫌すぎる……!!

・自分の意思がいつの間にか、相手の思うつぼの動きをしてるのが気持ち悪い〜
最後の方まで読み進めてると、もう抗いようがないよね……
「あなたの無意識が〜」と言われてしまえば、無意識なんて自分の意思でどうにかできる部分じゃないから否定もできないという……

作中人物の体験談を「あなた」の体験談として自分事にしてくるのが最高に嫌でしたね!

◆ちょっぴり考察

◉『カンテサンス文章1』とは一体何だったのか?

・2022年9月16日にニコニコ動画に投稿されたこちらの動画『カンテサンス動画2-14-3(1)』。

動画内容はひとまず横に置いておいて。
この動画の説明文欄を見ていただくと、「カンテサンス」の関係者が書いたであろうサークルの意義などがたくさん書かれています。

「対話の憩い カンテサンス」は宇宙的な力の獲得によって自分の中にある霊感を引き上げ、新たな自分を発見する自己啓蒙のためのサークルです。

(『カンテサンス動画2-14-3(1)』説明文より)

・「昨年の夏には我々の初めての試みである夏合宿を実施し〜」とあるので、噂話の夏合宿の翌年に書かれた文章なのかな?
これ、動画説明文ではなく、それこそパンフに書かれた文章を転載した感じがするな……

・さて、「カンテサンス」という言葉をネットで調べると……

・カンテサンス/quintessence
「真髄」を意味し、語源はquintus(5番目)とessence(本質)に由来する。
・クィンタ・エッセンチア
ラテン語で「第5の元素」を意味する。

この第5の元素が「エーテル」と呼ばれるもので、神々の身体を作ったりだとか、天界の液体であるとか色々言われてたみたいですね。
天動説が唱えられていた時代では、宇宙はエーテルで構成されてるという説があったみたい。

・つまり「カンテサンス=第5の元素=エーテル」で「宇宙的」「神々しい」みたいな”素晴らしい力”のイメージになったのではないかな?

すべての力の起源たるカンテサンスをわたしは取り入れます、まったく新しい自分に生まれ変わります、そんな強い意志を持ったひとがこのサークルにはたくさんいることがわかってもらえるでしょうか。

(『カンテサンス動画2-14-3(1)』説明文より)

・そして、この文章から読み取れたのは、この人たちが

「多少なりとも誰もが内包する自らのカンテサンス」
=「第六感」=「霊感」

と考えているようだということ。

なので「幽霊を見ること」ができれば「霊感がある」つまりは「カンテサンスを得る能力が上がる」と思っている節があるんじゃないか?

まあ、この動画説明文欄も”曖昧な表現”を多用してるので、この解釈が合ってるかもわかりませんけどね!

・サークルの人たちは、自分たちだけでなく、他の人々にも「カンテサンス」という力を知ってもらいたい。
また、その力を得るための手助けをする互助会としてもサークルは活動している様子。

『カンテサンス文章1』とは、彼らにとっての「カンテサンス」という力を得るための文章のうちの1つなんですかね……




◉文章や動画の意義

・ニコニコ動画にアップされた動画ですけど、電車の窓に人の顔みたいのが見えるんですね。
まあ、画質も荒いし、たまたまそう見える部分を切り取ったのだと思われる。

けど、これをコメントがワイワイ残るニコニコ動画という媒体で公開することによって、「幽霊が見えちゃった」と思わせる効果を高めたのかな〜、と思ってる。
誰かが「顔が見えた!」って書き込めば、第2、第3と同様に書き込む人が現れ……
一度”そう見えちゃった”ら、次からも顔にしか見えないよね……

・カンテサンス文章の方は、内容を「肝試しに行って怖い目に遭う因果話」にすることによって、多くの人に「より広く楽しまれ、面白く受け止められる説話」として拡散されることを期待している?

・動画も文章も、どうにかして読者を幽霊と遭遇させようと、「幽霊を見える」ようにしようとしてるよね?



◉サークルの現在

・まずはこちらの梨さんの投稿を見ていただいて……

この画像に書いてある「セミナー開催日時」がtale「カンテサンス」の公開日と同じ2022年9月10日なんですよね。

tale「カンテサンス」の時代は平成初期くらいを想定してるので、だいぶ昔の話。

この投稿画像からわかるのは、「カンテサンス」の活動は過去のものではなく現在も続いているということ。

・あと、tale「カンテサンス」の中にも、ちょいちょい引っかかる部分があるんですよね。例えば……

「そもそも東広島周辺にあった───換言すれば、東広島周辺にしか無かったのかも、未だによく分かっていないからです。」

(tale「カンテサンス」より)

「東広島周辺にしか」という言い方、他の場所にもあったかのような口ぶりに感じませんか?

・前述の『カンテサンス動画2-14-3(1)』の中身なんですが、あれって広島電鉄の路面電車の映像らしいんですね。
東広島市じゃないんですよ……😨
もう、市外に活動拠点を広げてると推測できます。

・あとこの部分ね↓

嘗てとある県のとある地区で活動し、いつの間にか名前を変えていなくなった「対話の憩い カンテサンス」という団体は恐らく、そこに付け込んだのだろうと思います。

(tale「カンテサンス」より)

さっきの梨さんの投稿の画像。
『せせらぎの対話 Q■■■■■』ってなってるやつ。
あれが新しい名称なんでしょうね……

画像にある「じぶん力体感会」って「幽霊が見えるようになれる」何かなんですかね……嫌すぎ😖


◉嫌な想像

あとは、読んでいて嫌な想像しちゃったところをぽつぽつと書いていきます。

✢Qの男の画像について

・本文の途中に挿し込まれるカンテサンスの勧誘ポスター。
画像名を見てみると『Question5〜1』とカウントダウンのように、数字が減っていくにつれてQの文字が男の顔になっていく。
そして最後の「見つけました」は『Answer』という画像名。

Qの文字が段階を踏んで人の顔になることで、最終的に”何の変哲もない「Q」を見ただけで幽霊の顔を連想してしまう”……「幽霊が見える」ようにするのが目的だとは思うんですが。

もう一つ、嫌なこと思いついたので共有しときます😇

・さて、唐突ですがここで「見」という漢字の成り立ちを見てください。
「見」は「目」と「儿」とから構成されていて、「儿」は「人」の変形。
つまり「人」の上に「目」があるんですね。

そしてこれが「目」の象形↓

そんで頭に浮かんだイメージ↓

ちょうど目の向きが、身体と90度傾いてるな〜、って。

90度傾けた首が身体の上に乗ってる図をイメージしちゃった……


✢「幽霊が見えるようになった」

前髪のすぐ下で、アメーバか何かのように不定形に引き伸ばされた真っ黒な目が露出したとき、ずっと無感情に窓の外を眺めていたBさんが突然にぱっと目を開いて、
嬉しそうに輝いた目で二人の方を見て
「幽霊が見えるようになった」
と言ったので、二人はそこで漸く弾かれるように会議室を飛び出しました。

(tale「カンテサンス」より)

これ初見時は、Bさんが「幽霊を」見えるようになって喜んでる描写かと思ってたけど、もしかして「幽霊が」自分たちを見ることができるようになったから喜んでたり……?
男の目がこっち見た瞬間の言葉だから、もしや……

✢”家の中を回る”要素

・一回最後まで読んだあとだと、肝試しがイマイチ盛り上がらなかったから外に出て、暗くなってからもう一度”家の中を回ろう”としてたのが嫌ですね……

✢A.B.Cさんたちに起こった何か

・Cさんが”珍しく本や新聞を読んでいるのかと思ったら、どこか一箇所の文字だけをただじっと見つめて、何十分もぼうっとしていたり”していたのは、たぶんQの文字を見つめてたんだろうな……

え、Qの文字から幽霊の顔でも見出そうとしている……?

・バーベキューに行って数日間、音信不通になってたのも不穏ですよね。
カンテサンスのメンバーに捕まって洗脳みたいな目に遭ったのかと考えてしまう……


✩☆✩☆

いやぁ、ミルトンモデルすごい……
こんな恐ろしい体験に流用されちゃうとは😅

カンテサンスの人たちは、聞きかじりの自己啓発法とスピリチュアルを混ぜ混ぜした結果、独自の方向性を見出してしまったんですかね……
ふわふわした抽象的で空を掴むような活動方針が、ミルトンモデルの曖昧さと変にマッチしてしまったのかな?

この人たちのいう「新しい自分」ってのがいまいちイメージできないんですが、「とても駄目」な印象は受けますね……

第5元素としての「カンテサンス」って人の魂の成分に入ってたり、神の身体を構成したりすると言われていたらしいので、サークルメンバーはそれをたくさん身体に取り入れることで、”人間ではない何かに成ろうとしてたら嫌だな〜”と思ったところで、終わりにしたいと思います。

あ〜、怖かった……

いいなと思ったら応援しよう!