vol.2〈柿下・香春町消防団第五分団柿下班〉ーだって自分の地域やん
先輩たちが地域を作り上げてきてくれたから今の俺たちがおるっちゃんね
霜月、御祓川に西日が差し田畑が朱色に染まる夕暮れの頃、消防服を身に纏った男たちの威勢のいい挨拶と談笑が聞こえてきます。ここは香春町消防団第五分団柿下班の格納庫。
慣れた手つきで消防設備の点検が始まります。「危ないき離れちょき。」さきほどまでとは、うってかわって目は真剣そのもの。消火ホースを握る手に力を感じます。柿下消防団では地域の見回りや、危険物の撤去作業、祭りの準備なども担います。
「柿下で何かあったら俺たちが出らんといけんきね。」そう話すのは分団員で保育園の園長でもある村上さん。集まりには決まって一番に集合します。「昔からそうやもんね。遊んでそうな見た目やけどしっかり者やないかな。」と言われると「そんなことないやんか。俺は遊び人やき、お前の方がしっかりしちょうやんか。」といった、まるで漫才のようなやり取りからは親交の深さが感じられます。現団員のほとんどが柿下で生まれ育った幼馴染、年齢も近くお互いの事をよく理解し尊重し合っています。辺りが暗くなると「よっしゃ」の掛け声で訓練が終わり、終礼が執り行われます。戸締りをして指差し呼称、「ここまでが俺らの仕事」と最後まで気を抜きません。
”地域で活動してると 見えないものが 見えてくるっちゃんね”
「おつかれさん」班長の常門さんが口を開くと先程までの緊張感は綻び、自然と笑みがこぼれます。口数は少ないものの、訓練の前日にはこっそり格納庫を訪れて掃除や、消防ポンプに給油するなど、優しく生真面目な性格で皆から慕われています。「地域に愛される部隊を目指したい」と意気込む常門さんの言葉には皆の想いが詰め込まれています。
消防団としてだけではなく、地域の保護者として進学路の草刈りも欠かしません。「俺らが子どもん時からおやじ世代がそうだったきね、自然とそういった気持ちになるっちゃんね。」と話すのは世話焼きの成崎さん。「俺達みんな子どもたちが大きくなるまでは消防団を続ける覚悟でおるよ。俺たちの使命みたいなもんやね。」その言葉からは、自分たちが父親世代の地域活動を見て育ったように、今度は自分たちが地域や子どもたち世代を守っていきたいといった強い意志を感じます。
柿下戻ってきた時、仲間がいて本当に良かったんちゃんね
「柿下の消防団はの、こいつらがおるきおもろいんよ。」村上さんが言うと、「誰かさんはすぐ蜂に刺されるきね。」と成崎さんが水を差します。「おいおい、それ30年前の話やないか。」と続き、照れ臭さを隠すかのようにまた漫談が始まります。「子どもの頃の失敗や出来事を今でも面白可笑しく話すんばい。この歳になってみんな柿下に戻ってきたきね。」柿下で生まれ育った幼馴染は進学や就職、結婚を機に一時は町を離れ、別々の人生を歩んでいったといいます。「深い理由は無いけど、何となく地元に帰ってきた。」と皆が揃って同じ事を口にします。その台詞の背景には言葉では言い表す事の出来ない仲間の絆と、地元愛が深く刻まれている事でしょう。
今日も御祓川の縁に子ども達の元気な挨拶が響きます。「この光景は昔から変わらんね。」そう話す地元の方の目には明るい未来が映っているように感じました。