vol.4〈香春・道草の会〉ー作業は登山の延長かな
「おーい!晴れ男は誰だ?」「俺だよ、日頃の行いがいいもんでね。」朝露に濡れた初夏の林道からユーモラスな会話が聞こえてきます。ここ牛斬山の登山口に草刈り機やチェーンソーを担ぎ集まるのは<香春・道草の会>の方々。「口では冗談ばっか言うとるけど、よう働くんよ。」と藤井さん。「ほんとゆるい集まりよね。」「お堅くないとこがいいやんね。」と続くと、今度は女子会が始まります。
道草の会は香春町の山道保守を目的に活動しているボランティア団体。高校時代は同じ生物部(部活)の仲間で、50年来の付き合いだといいます。「ただの趣味の延長だよ」みな同じ言葉を口にしますが、重装備を身に纏い山に向かい歩を進めると目の色が変わります。
始まりはおよそ25年前にさかのぼります。生物部の先輩で面倒見の良い進(しん)さんは趣味人。何をさせても器用にこなし、皆からの憧れの存在です。「仲間が多くいるから」そんな人情深い性格も相まって香春町に移住した進さんは、趣味の蕎麦打ちを本格的に始めます。人に喜んでもらうのが好きだという進さんが打った蕎麦は、お世辞でもなく美味しいと評判だったといいます。
そんな人の集まる場所にしたいという願いから名付けられた蕎麦屋<道草庵>には毎週のように同志や常連のお客さんが集まり、趣味や遊びの話で盛り上がっていました。「道草の先輩方が弟の様に可愛がってくれる」と岩本さん。人にやさしく自分に厳しい真面目な進さんの人柄は、地元矢山にもすぐに馴染み歓迎されたといいます。
お腹空かせて食べたら 美味しいやん
「道草庵の蕎麦をもっと美味しく食べたい、そんな思いで裏山に登山道を作った事が始まりやなぁ。」と正蔵寺さん。
もともと、生物部で自然観察が好きだった仲間達にとって山は恰好の遊び場でした。今では山に登ってきた人が喜んでくれるのが一番のやり甲斐だと話します。そんな始まりから20年間、道草の会はほぼ毎月休まず香春町の山に登山道を造り保守してきました。
”僕らが作った道を歩いている人を見た時は感激したなー それがあるから今も続けているのかもね”
「山は生きてますから、だから人と同じように綺麗にしてあげたらとても喜ぶんだよ。山も喜ぶし、登山に来てくれた人も喜ぶ。」と岩本さんは言います。
背丈ほど茂った藪道がみるみると遊歩道へ変わり、分岐点には道草の会ならではの黄色い看板を備え、山を訪れる方に安全な登山を提供してくれます。
「みんなで作業しよると楽しいっちゃね。辛い時もあるけど、集まるだけでも元気を貰える気がするんよね。今も昔と変わらんような気がするね。」高山さんが口にします。
「もちろん使命感もあるし、進さんの想いがそうさせよっちゃないっとね。」と会長の原田さんが真剣な面持ちで話し出すと、「おーい!口ば動かさんで手動かし。俺はもう休憩するけどね!」と正蔵寺さんは照れ笑いを浮かべながらも、どこか誇らしげな表情です。
今日は楽しかったー 道草に来たら 楽しいがー
夏雲の隙間から差し込む日差しが美しい牛斬尾根。山を下り、木陰でいただく握り飯は格別です。「こんな日は美味しい蕎麦が食べたいねえ」火照った肌に感じる優しい風は進さんからの「ありがとう」の合図だったのかもしれません。