なぜ黒瀬深はインフルエンサーになれたのか?
Twitterの政治系インフルエンサー、黒瀬深がアカウントを非公開にした。政治家を誹謗中傷する投稿が名誉棄損に当たるとして訴訟を起こされ、FLASH誌が訴訟記録を閲覧請求したことで個人情報がネット上に開示されたのである。これにより、黒瀬深は「身バレ」してしまい、Twitterを引退に追い込まれてしまったようだ。
インフルエンサーとは言うが、要は「Twitterでフォロワーが多い人」である。しかし、フォロワーは約14万人であり、FLASH誌の記事がYahooニュースにも掲載され、そこに1100件のコメントが投稿されるなど、その影響力の大きさが窺われる。
フォロワー14万人というのは、どれほどの影響力なのだろうか。政治家、または政治系のアカウントのフォロワー数をいくつか調べてみた。河野太郎240万人、橋下徹が260万人で、おそらくこのジャンルではトップだろう。野党の代表では吉村洋文(維新の会副代表)が120万人弱、山本太郎(れいわ新撰組)が45万人、松井一郎(維新の会代表)が40万人、枝野幸男(立憲民主党)が18万人、玉木雄一郎(国民民主党)が17万人、立花孝志(NHK党)が13万人。
つまり、フォロワー数が14万人いるということは、野党の党首と同じくらいの発信力があることを意味している。
私は黒瀬深をフォローしていない。それでもTwitterの政治系トレンドを閲覧するたびに黒瀬深のツイートをよく目にしていた。Twitterのトレンドではいいね数やRTの数が多いツイートがトップに来るためだ。
黒瀬深のツイートを見るたび、なぜこのアカウントがこれほど影響力があるのか疑問に感じていた。
Twitterには黒瀬深と同じように、フォロワー数の多いインフルエンサーが無数に存在する。私がTwitterアカウントを開設したのは2009年である。それからほぼ毎日継続的にTwitterを閲覧し、いくつものインフルエンサー(以前は「アルファ・ツイッタラー」などと呼ばれていた)アカウントを見てきた。タイムラインに流れてきた彼らの「バズった」ツイートを読むと、やはり面白く、彼らのアカウントに飛んで他のツイートを読んでみてもなぜ彼らがインフルエンサーであるのかが理解できた。
着眼点のユニークさ、視点の新しさ。なにかしらの魅力があるからインフルエンサーのアカウントには人気があるのだ。しかし、黒瀬深のツイートに、私はそのような魅力を感じたことはなかった。政治に関するツイートは基本的にはどれも与党(自民党)擁護と、野党を下げるものであり、それ自体なんら新しくもなく、着眼点や視点にユニークさがあるわけでもない。5chなどの掲示板を閲覧すれば、黒瀬と似たり寄ったりの投稿を無限に見つけることができるだろう。
ここでタイトルの疑問に戻る。ではなぜ、黒瀬深はインフルエンサーになれたのか?
アカウントが非公開になる前、私はときおり黒瀬深のツイートを遡って読みながら考えていた。なぜこのアカウントがそれほど人気なのか。ほかの政治系アカウントにはない、このアカウントをインフルエンサーにまで押し上げた何かがあるはずだ。
黒瀬深のアカウントを定期的にチェックしていると、あることに気づく。彼は頻繁にアイコンの画像を変えるのだ。Googleで「黒瀬深」で画像検索すると、過去のツイートのキャプチャ画像が表示される。歴代のアイコンを見ていくと共通点があることに気づく。男性の顔のイラストである。どちらかといえば、男性よりも女性に人気の出そうなテイストである。少女漫画に出てくるイケメンキャラのようなアイコン。
黒瀬はアカウントを非公開にする直前、黒髪長髪で美形な男性キャラにアイコンを変更した。どこか冷酷そうな感じのあるキャラである。黒瀬は毎回、アイコンを変更するとその旨を報告する。その報告ツイートにフォロワーから「やはり黒瀬さんはこういうイメージなんですね」という意味のリプライが来ていた。
そのときふと思った。「黒瀬深が人気なのは、アイコンが理由なのではないか?」
たかがアイコンくらいで、と思うかもしれない。しかし、人は相手のアイコンによってネット上の振る舞いを変えることがわかっている。
つまり、黒瀬深はアイコンを使って自身のイメージを作り上げ、それによって人気を得て、インフルエンサーの地位を築いたのではないか。
黒瀬の歴代アイコンに描かれているキャラを見ると、冷たい表情や、鋭い目つきといった特徴があることがわかる。これは「切れ者」に見えるような、知的なイメージを形成するためだろう。イケメンキャラが鋭い目つきや冷たい表情で、特定の政治的勢力を批判する発言をしていることを想像すると、たしかに説得されてしまうような迫力があるかもしれない。政治に詳しくない人はツイートの内容よりも雰囲気やイメージの方が先行してしまうはずだ(小泉進次郎の人気を見ればわかるだろう。環境大臣就任前のなんの実績もない段階から将来の総理大臣候補として国民的人気があった)。アイコンの力によって「なんだかよくわからないけど、この人が言っているのだから正しいのだろう」となってしまっている可能性がある。
インフルエンサー・黒瀬深の一連の騒動によって示されたのは、SNS時代の政治的プロパガンダである。
大衆の視覚や聴覚に訴えかけ、内容よりもイメージを重視する。ナチスの時代から政治的プロパガンダの方法は変わっていない。