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よりみち和菓子日記 17

10月25日 山づと


山づと。「づと」は、草かんむりに包むと書く。山から持ち帰ったおみやげ、というような意味らしい。

気付くともう10月も終わろうとしている。
結局9月は来られなかったので、久しぶりの寄り道だ。

最近、色々なことに追われてしまっていて、この日も正直、このお店で、じっくりとお菓子に向き合い、楽しむことができるだろうかという気持ちもあったが、思い切って、暖簾をくぐった。


暑くもなく、寒くもない。おだやかな、曇り空の秋の日。


おばあちゃんが運んできてくれたお菓子は、真っ白なまん丸いお饅頭だった。

じょうよまんじゅうというのか、ほんのりとやまと芋の香りがして、もっちりとした食感の皮の中に、栗のあんこが入っている。

栗あんは、ほろほろとして、栗本来の甘みと風味が感じられ、高級な栗きんとんのようだった。


ここ数年は遠ざかってしまっていたが、近隣の小さな山道をよく歩いていた時期があった。そういえば、今ごろの季節が、歩くにはいちばん楽しかったっけ。みずみずしいむかごの香り。山栗もたくさん落ちている場所があって、拾って帰ったり。なんだかすっかり忘れていた。山づと。お山からの、贈りもの。その、わくわくするような、喜ばしい気分。


そのお菓子は、素朴な味わいだったけれど、そのぶん、香りや風味が生きていて、それらが、私のなかの、忘れかけていた感情を、よびさましてくれたような気がした。


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