よりみち和菓子日記 13
4月19日 名残
線路沿いの楓の若葉のまぶしさに目を奪われた。桜はもう散って、歩いていると汗ばむほどだが、日陰に入ればひんやりとしている。
今日のお菓子は何だろう。
窓際の席で、わくわくしながら待っていると、明るい若葉色のお菓子が運ばれてきた。中央の一点が、淡い桜色に染まり、花の刻印が押されている。
お菓子のなまえは、「名残(なごり)」。
お抹茶の器は、ブルーグレーのような、落ち着いた色に、少しグリーンも混ざったような、なんともいえない不思議な色をしている。ところどころに、深い藍色に染まった箇所が点々とあるのが、まるではらはらと舞い落ちる桜の花びらのように見えた。
花の名残りを惜しむ心。そこにある優しさに気づいて、胸がいっぱいになる。
0か1か。白か黒か。桜は散った、さあ次は。気づけば、そんな杓子定規な考え方に、無理やり自分をあてはめようとしてはいないか。
名残を惜しむ心、というのは、そのどこにも、あてはまらない。
限りなくグレーな世の中で、執着や未練に惑いながら、人は生きている。それが自然なのだと、思った。
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