話が通じない恋人と別れて、一人旅をした話。②
北陸新幹線は初めてじゃなかった。
母の実家が北陸地方にあり、母と祖母の関係が今ほど冷え切っていなかった頃までは、二人でよく行っていた。
でも、母と一緒に行くのと、一人で行くのでは、やはり何かが違う。
東京駅で買う、添加物てんこ盛りの駅弁も、窓から見える雪化粧をした立山連峰も、自分にとっては新鮮な世界だった。
それに、今回は憧れの人に会いに行くのだ。
そりゃあ、一味も二味も違うに決まっている。
ミッションリストも、既に脳内に作成してあった。
・新鮮な海鮮(お寿司)を食べること。(この時期は、身が引き締まっていて海鮮が美味しいと、味にうるさい母が言っていた。)
・これまた有名なおでんを食べること。
・ツアーの記念キーホルダーを買うこと。
・一緒に行けない母のために、お土産をたくさん買うこと。
結果的に、ミッションリストの中のすべてを達成した。
お寿司は1日目の夜に食べた。
私は、決まったネタしか食べず、しかも一番好きなネタ(?)が納豆巻きという、寿司職人からしたら大分失礼な客だが、その寿司職人は、嫌な顔一つせず私のオーダーを作ってくれた。
納豆巻き。鉄火巻き。
にぎりも試したくて、甘えびも注文。
ガリも大好きなので、多分周りの人が見たら引くほど食べた。
間近で、談笑しながら寿司を握り、暗号のような言葉でオーダーを伝え合う寿司職人たちの日常は、いつまでも見ていても飽きない光景だった。
泊まった宿は、安くて清潔で、オーナーさんとの談笑も楽しかった。
彼との旅行では、その4倍以上の値段を出したが、正直、4倍楽しいなんてことは決してなかった(宿の人に責任はない)。
それだけに、「こんなのでも全然楽しい!」と、今まで隠れていた本当の自分を再発見したかのような、うれしい気持ちになった。
おでんは、2日目の昼に食べた。
ちくわ、卵、はんぺん。鰯のつみれや本格的な練り物は、手を出すのを躊躇するような値段だったので、やめにした。(紛らわしいかもしれないが、写真は写真ACより。いつも大変お世話になっています。)
お土産は、1日目と2日目に分けて買った。
白えび煎餅。北陸地方限定発売のポッキー。平たい饅頭。
母の好きな、郷愁をそそる昆布系の餅や煎餅を探すために、お店を渡り歩いた。
記念キーホルダーは問題なく買えた。
颯爽とステージに出てきた角野さんは、遠目からしか見えなかったが、画面の中に見るその人に違いなかった。
かと思ったら、マイクを握った彼は、あの、非の打ちどころのないかのように見えた音楽家「かてぃんさん」ではなく、ちょっと口下手(ごめんなさい(笑))なところもある「角野隼斗さん」で、そのギャップと、年が近いことも相まって、なんだか友人のような親しみを持ててしまい、惜しみない拍手を送った。
帰りの新幹線の中で、ますの寿司を食べながら、ぼんやりと外を眺めた。
自分の好きなこと、したいことのために、惜しみなくお金を使った2日間。
その総額は、彼と旅行に行った時よりもずっと安かったのに、その満足度たるや、桁違いだった。
その差は一体何だったのか。