勝負と生死
みんな大好き『バキ』シリーズ。
今年で連載30周年とのこと。いまだに色々とネタを提供してくれつつ、純粋な強さへの渇望を刺激する、格闘漫画の最高峰なのではなかろうか。
いずれかのシリーズに触れて格闘家や武道家を志した方も少なからずいると思う。
そんな『バキ』シリーズも段々とエキセントリックなキャラクターを量産していて、もとい良産していて、最強とは何かを幾度となく問うことになっている。
恐竜がいた時代に岩塩に閉じ込められたまま1億年以上の時を経て現代に蘇った最古の人類、ピクル。最先端のクローン技術と類い稀な霊能力の末に造り出された、宮本武蔵。石炭を握りしめてダイヤモンドに変える脅威的という表現を遥かに凌駕する握力を持つ相撲の祖、野見宿禰の末裔。
触れたいキャラクターはたくさんいるが、今日はふと頭に浮かんだ、郭海皇について。
郭海皇は146歳というギネス記録を軽く超える年齢で、中国武術の頂点に君臨するおじいちゃん。権力的な頂点(ということも言えるかもしれないけど)ではなく、見た目はよぼよぼながら単純な強さで中国武術界の頂に100年もの間居続ける男。
そのおじいちゃんが、バキ(主人公)の父親で「地上最強の生物」と呼ばれる範馬勇次郎と勝負する場面がある。
軽く勇次郎について触れておくと、彼が生まれた日に直感的に危険を察知した各国のトップが核保有を決意したり、10代の頃から傭兵として戦場で生き素手で軍隊を潰しまくったり、挙げ句の果てには個人でアメリカと平和条約を結ぶような男だ。
中国武術界の完全体と、地上最強の生物の対決。
お互いに人間の限界を無視した圧倒的な力でぶつかり合い、闘技場を破壊しまくる。けして『ドラゴンボール』とか『呪術廻戦』のような、気や呪力という見えない力を使う話ではない。あくまでも現実らしき世界で現実よりも少し現実離れした、武力と暴力の戦い。
で、この戦いがどのような決着を迎えたのか。
最後、2人とも立っているのだが、引き分け。というか勝負なし。
なぜなら勇次郎がとどめの一撃を放つが、郭海皇の顔に当たる寸前で拳を止めてしまうから。その理由は郭海皇が戦いの最中に立ったまま死んでしまったため。
勇次郎はそれが分かり拳を止めた。医師が立ったまま動かない郭海皇を診ると、瞳孔は開き脈は停止し、臨床学的には完全な死の状態で、老衰と判断され、そこで試合が終わる。
リアルタイムで連載を見ていた時は、かなり衝撃を受けた。
そして翌週の話。中国武術界側の控室で郭海皇が目を覚ます。というか生き返るという、読者の混乱を招く展開へ。
郭海皇は死んだフリをしていたとのこと。でも、医師も認める間違いなく完璧な死であった。曰く、勇次郎には勝てる気がしないと思ったが、実際に勇次郎が拳を止め試合が終わり、生きてここに自分がいるから武術の勝ちである。
めちゃくちゃなこと言うじいちゃんだな……と当時は思ったが、よくよく考えてみれば、誰よりも強くなりたいというのが、≒で「生殺与奪の権は誰にも渡さない=生きたい」という願望だと考えれば、最後に辿り着く究極的な答えが「完璧な死」んだふり、なのかもしれない。
おまえは何にどんな影響を受けてんだ……と思われるかもしれないが、たまにはこんなどうしようもないことを考えるのも頭の体操になるし、けっこうおもしろい。そんなことを思いながら、この秋の夜長にシリーズを最初から読み返したくなってきた。
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