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【掌編小説】ひとりごとの正体

「ひとりごとってさぁ、誰にも聞かれてないからひとりごとなんだよね」

「ん? それはひとりごと?」

「違う。きみに言ってるの」

「質問ってこと?」

「そう。わたし最近ひとりごとが多い気がして。でも、誰かと話してる感じもあってさ。」

「オカルトの話か何かですか?」

「違います。いや、でも違わないか。うーん、なんて言うか、わたしが誰かに向けて何かを言ってる気もするんだけど、その答え? みたいなのも、わたしは知っていて」

「それ、あれじゃない? 脳内会議ってやつ。よく自問自答する時にいろんな自分の考えが頭ん中にワーって出てくんじゃん。それな気がするけど」

「言いたいことはわかる。でも、なんか違うんだよなぁ。なんて言えばいいんだろ……例えば、今きみはわたしの目の前にいるよね。だからこうして会話が成り立つ」

「そうだな。俺がオバケの類じゃなけりゃ」

「まぁ、きみがオバケだったとしても、こうして意思の疎通ができてるから、会話が成り立ってるってことでしょ?」

「たしかにそうだわ。てか、俺がオバケかどうかはどうだっていいのか」

「だって今はそんな話ししてないもん。あのね、実態があるとかないとか、そんなことはどうでもよくて、いや、どうでもよくはないけど、今はいいの。とにかく、わたしのひとりごとは誰かに向かって話しかけてるんじゃないかってこと」

「ぜんぜん分からん。誰もいないならそれこそひとりごとだろ。あっ、あれか。テレビに向かってツッコんでる人と同じ現象か」

「あれはまず相手、っていうのも変だけど、テレビの向こうで誰かがボケたり変なこと言ったりした場合でしょ? テレビが黙ってるのにツッコんでたらそれこそオカルトじゃん」

「そういうことね。理解」

「理解、じゃない。もうちょっと真剣に考えてよ。悩んでんだから」

「てかさ、それってそんなに悩む問題?」

「どういうこと?」

「だってさ、それ一人の時にやってんなら誰にも迷惑かけてないし、変な目で見られることもないし、たいした問題じゃなくね?」

「あっ、そういうこと言う」

「さっきのテレビの例が違うのはなんとなく分かった。でも、例えばペットに話しかける人っていっぱいいんじゃん? それと近い気もすんだよね。実態があるかないかの差で。さっき実態のあるなしはどうでもいいって言っただろ? それならたいした問題じゃないかなぁって」

「たいした問題よ! きみの大事な大事な彼女が悩んでるっていうのに、なんなの」

「ごめんごめん。別に軽く考えてるわけじゃないけど、深刻に考えすぎた方が怖いかと思って。あと、「大事な」は一回でいい」

「何それ? 今それ言う必要ある? もういい。帰る」

「待て待て。早まるな。大事な大事な大事な彼女だから」

「なんか軽い! やっぱ帰る」

「いや、本当ごめんなさい。帰らないでください。大事な彼女さま」

「……」

「ごめんなさい。もうしません。たぶん」

「……」

「いや、もうしません。なので、帰るのだけはどうか」

「じゃあ、ちゃんと一緒に考えてくれる?」

「もちろん! そりゃ、大事な大事な彼女さまのお悩みですからね」

「きみ……バカにしてるでしょ?」

「そんなことない。断じてない」

「まぁいいや……で、どう思うの?」

「何が?」

「ひとりごとの話に決まってんでしょ」

「あぁ、それ。実はなんとなくだけど分かった」

「うそ? 何が分かったの?」

「うーん、なんて言えばいいんだろ。結論から言うと、おまえの気にしすぎ」

「どういうこと?」

「気にしすぎって言うよりも、体感として残っているっていうか。たぶんだけど、おまえがいう「ひとりごと」って、本読んだあとに記憶に残ってること多くない?」

「言われてみれば、そうか、も」

「それも、新しい本じゃなくて気に入った本を読み返してる時じゃねーかなと思うんだよ。俺もたまにあるんだけど、一度読んだ本を読み返してる時って、漠然とは本の内容が頭に入ってるから、新鮮な気持ちで読んでるつもりでもどっかで次に書いてあることを予測してんだよ」

「ん? なんか分かったような分からないような。それとわたしのひとりごとはなんの関係があるの?」

「えっ? まだ分からんの? おまえ本読む時、ちょいちょい音読してるじゃん。むしろそれに気づいてなかったのか……なるほど。それなら、なおさらだわ。いいか、音読している自分の声が耳から入ってくるだろ?」

「うん」

「そのタイミングでまずはひとりごとが完成してる。そんで、最初の方に言ってた、自分が答えを知ってる、ってるっていうのは、一度読んだことがあるから、その続きを知ってるってこと。だから、意思の疎通が出来てる感覚にもなったってわけ」

「そうなの? わたしのひとりごとの正体ってそれ?」

「たぶんな。最近めちゃめちゃ本読んでるって言ってたの思い出して。あぁ、俺も前にそんな感覚になったことあったなぁって。まぁ、俺の場合は、黙読だからけっこう脳内会議状態に近いけど。音読が癖になってたらありえそうだと思って。ちなみにさっきも小声だけど、音読してたぞ」

「えっ? うそ? ほんと?」

「本当です。これで、ひとりごとの謎も解けたし、飯でも食いに行こうぜ。めちゃ腹減った」

「わたしの悩みは、解決、したの……?」

「気になるなら次に本読む時に意識してみ?」

「うん、わかった」

「それでもやっぱおかしいなって思ったら、そん時はオカルト系で考える」

「何それ。やっぱ帰ろうかな」

「……ごめん、なさい」

「じゃあ、ご飯はご馳走してね」

「なんかおかしくね?」

「それはひとりごと?」

「……はい」

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昨日書いた会話形式でショートショートが思いのほか面白かったから、またしても会話形式。アドリブで書いていくの楽しい。

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