【掌編小説】言葉が降ってきたら
「ねぇ、もし言葉が降ってきたら傘をさす?」
「ん? それは誰が降らすの?」
「うーん……神さま、とか?」
「質問に質問で返すな。じゃあ、雨みたいに液状なの?」
「わかんない。ふと、思っただけ。言葉を浴びせる、とか言うでしょ? そしたらシャワーを浴びるとかと一緒なのかな、って」
「それなら前提は液体ってことになるよな?」
「まあ、それでもいいけど。でも、わかんないよ? レンガみたいにめっちゃ硬いかもしれないし、ゼリーみたいにぷにぷにしてるかもしれない」
「降ってくるレンガ相手に傘さしても無駄な抵抗だろ……ピストル相手にジャンプを腹に入れる方がまだ見込みあるわ」
「ああ言えばこう言う」
「前提がなきゃ話が進まんだろ……」
「そこはイメージを働かせるのだよ。わたしはもう完璧にイメージできてる」
「ほお、それじゃ聞かせてもらおうか。傘をさすのかささないのか」
「わたしはねぇ、ささない! だって言葉が降ってくるんだよ。それでね、体に浴びた分だけその言葉を自分のものにできるの! 凄くない?」
「凄いのは、前提っていうか設定だな…。そんなふうに考えていいなら、おれもささんわ! さらに設定追加。浴びた言葉と自分の経験を融合して、小説を自動書記できるようにする」
「えっ、ずるくない? 何でもありじゃん!」
「えっ、最初に設定つけたの誰……」
「わたしのはかわいいもんでしょう。あっ、でもあれか。自分の経験と融合して、か。じゃあ、わたしの勝ちだ」
「ん? 言っている意味がわからんのだが」
「だって、あなた毎日ゲームばっかりしているじゃん。わたしは毎日のようにジム行ったり、友だちとカフェに行っていろいろ話したり、最近なんて出張で金沢行ったし。経験値がいっぱい貯まっているのだよ」
「あのな、ゲームって言ってもいろいろあるんだよ。それこそファンタジーの要素の強いゲームはけっこうやってるから、その経験を活かせば、それなりの世界観を持った小説ができるはず! 日常の要素しかインプットのない誰かさんに負けるとは思えん」
「じゃあ、もう勝負しよ! どっちが良い小説書けるか」
「わかった。勝負な。受けてやる」
「……」
「なあ、言葉、いつ降ってくんの?」
「さあ……わたしにもわかんない。いつ、だろ……」
「……よし、そろそろ寝っか」
「寝よう。明日また続き話そうね!」
「えっ、お、おう」
「じゃあ、おやすみね」
ふたりは夢の中で言葉が降ってくるの祈り、目を瞑った。
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頭の中に急に「言葉が降ってきたら傘をさす?」というワードが浮かび、会話形式でショートショート書けないかと思い、そのまま脳内会話を男女のやりとりに見立て書いてみた。これはこれで面白い経験。楽しい。
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