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ちゃんと見えてるさ。『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』

本日紹介する映画はマーティン・ブレスト監督『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』です。

ボストンの全寮制名門高校に通う苦学生チャーリー(クリス・オドネル)は、故郷へ帰る旅費を稼ぐために感謝祭休暇中に盲目の退役軍人フランク・スレード中佐(アル・パチーノ)の世話をするアルバイトを引き受けます。口が悪く気難しい中佐を前に、チャーリーは先行きに大きな不安を抱えるのです。

アルバイトに対しての不安に苛まれるチャーリーは、同級生が校長の愛車に対するイタズラの準備を目撃します。翌日イタズラは決行され、目撃者として名前を挙げられたチャーリーは、激怒した校長から犯人たちの名前を詰問されます。吐けばハーバードへの推薦を出そうとちらつかされ、感謝祭休暇後の回答を要求されます。チャーリーは中佐の世話だけでなく、同級生を売りハーバードへ行くか黙秘するかという苦悩まで抱えることになったのです。

中佐の世話が始まると、彼はチャーリーをニューヨークに連れて行き豪遊に付き合わせます。2人の間には少しずつ友情が生まれますが、中佐はチャーリーに秘密で「ある計画」を終焉へと進めていたのです。チャーリーにはチャーリーで、ハーバード進学をとるか友人を取るのかの選択の時が迫り、二人は隣同士で、それぞれ別の岐路に立つことになるのです。


この映画にて、アル・パチーノは悲願のアカデミー主演男優賞を受賞しました。彼の演技は凄まじいものであります。黒目をあまり動かさず、本当に盲目なのではないかと思わせる演技は、何よりも「目」によって表現されているのです。

チャーリーと中佐の友情については、徐々に築き上げられていく様子を我々は追うことができます。中佐は確かに盲人ではありますが、様々な感覚を感じ取り、チャーリーのことを理解しようとしています。中佐は、チャーリーのことをちゃんと「見えて」いるのです。

映画の中でいいアクセントとなっているのが、中佐がレストランで若い女性ドナ(ガブリエル・アンウォー)とタンゴを踊るシーン。中佐にタンゴを踊ろうと誘われたドナは、「間違えるのが怖いわ。(Afraid of making a mistake.)」と答えます。これに中佐は「タンゴに間違えはないのさ、人生と違ってね。とってもシンプルだ。それがタンゴの良いところだ。間違えても、タンゴは続くのさ。(No mistakes in the tango, not like life. lt's simple. That's what makes the tango so great. lf you make a mistake, get all tangled up, just tango on.)」と答えるのです。中佐は「人生と違ってね」なんて言っていますが、私には「人生だって、間違えたって続いていく」と監督は伝えたいんだろうと思わずにはいられません。それはきっと全編観ていただけるとさらに強く感じられます。

このタンゴシーンはこの映画のプロットにおいてはメインでないとしても、私は一番芸術性が高いシーンだと考えています。アンウォーは美そのものだし、アル・パチーノの盲人の演技は、ここにおいて最高潮を迎えています。下に動画を貼るのでぜひ観てください。タンゴを踊りながらも動かない黒目、自然な焦点の当て方、本当にパーフェクトです。


上映時間は157分と標準的です。2人の友情物語として楽しむこともできるし、アル・パチーノの(「目」の)演技に注目しても楽しめます。どんな時でも誰とでも観られる映画です。ジャック・ダニエル片手に観るのも粋ですね(観れば理由はわかります)。

人が人を信じていくという、ある意味不思議な力を感じたいときにぜひご覧ください。


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今日は、「人が人を理解しようとする」ことについて。
映画『ビフォア・サンライズ』のセリフから考えています。

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