ハチマキと砂時計①愛に行った日
サンロード新市街の入口で
私は佐野くんを待っている。
こんな遅い時間の待ち合わせは初めてだ
市民会館でライブが終わって、真っ先に会場を出た。
南国の鮮やかな色の花が
まだ暑い10月の夜の風にゆらめいて
目の前を路面電車が通り過ぎる。
この町は佐野くんの日常で、私の非日常。
「自転車ですぐだから、終わったら行こうか」
と言われたときは、ちょっと驚いた
佐野くんは安心している
私を信頼している
私は何の不安もなく覚悟もしなくてよくて、
初めて来る南の町で佐野くんに会えるのが
楽しみで仕方がない
こんなに長い付き合いなのに、
新しい佐野くんとの関係が始まるのだ。
遠い町のこの景色の中で
夢の中にいるみたい
突然、佐野くんが目の前に現れた
あっ、、って2人とも一瞬最初の言葉が出ない
「荷物置いて来ればよかったのに」
ツアーバックと、お土産が入った大きな袋を抱えた私を見て、そう言った。
片手に頼んでおいた熊本の日本酒を持っている。
荷物を整理しに戻る時間はあったけど、、
待っていたかったのだ
佐野くんを待つ時間。
そんな時間も、日常の私にはない
「来ちゃったよ、私すごくない?」
「こんなところまで来るなんて
ほんとにすごいよ。その行動力は」
「ライブすごい盛り上がったの!」
今の私の勢いは、とにかく凄まじい。
なんと言っても
1日で大好きな推しの2人に会えるのだ。
1人は全国ツアーもやるような
ビックなスーパーアイドルで
1人は高校時代から大好きな佐野くんである。
佐野くんがついでなのか、推しのアイドルがついでなのか...
推しに背中を押されて、佐野くんに会いに来た、のが正解かな。とにかく来てしまった。
東京から熊本へ。
佐野くんは興奮している私を、呆れて見ている。
並んで歩きながら
人通りの少ない広いアーケード街を歩き
地元のお酒が飲めるカウンターバーに入った
何も変わらないような
何かが変わったような
4か月前。
佐野くんとは、何度目のお別れだろう?
と思って毎日泣いていた
今度こそもうだめだ。
私は佐野くんを好きな気持ちを
手放す時だと。
なのに今、こんなに遠い南の町で
2人で並んでお酒を飲んでいる。
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