「ハチマキと砂時計」④野生のカモシカ

「社会人の区民大会に出るから、見に来なよ」

佐野くんに言われたので、
よく晴れた寒い4月の日曜日、早起きして駒沢競技場へ行った。

佐野くんは幅跳びの選手で、
高校の時は、都大会で7位とか8位とかのいい成績を出していた。

「遊びだからね。
1年間全くやってないし。」

8時過ぎに着いたら
見覚えのあるウインドブレーカーを着て、すでにアップをしていた。
広い駒沢競技場に人は少なく
趣味で陸上を楽しむ人たちの集まりみたいだった。

佐野くんともう1人、キャプテンだった大村がいた。
お節介で俺様で、佐野くんと私の仲をどうにかしようとして、よく「お前がなんとかしないとだめだ!」と言われていた。

大村は手を突き上げてゴールテープを切るタイプで、佐野くんは淡々と静かに目だけが燃えている。対照的な2人だ。

大村は私を見ると、なんでいるの?って顔をして、怒ったような表情をした。

しばらく2人を遠くで見ていて、
グランドの近くまで下りてみた。
「頑張ってー!」と佐野くんに向かって
大きな声で叫んだら
「だめだー、足が動かない」
と笑顔と一緒に、楽しそうな声が返ってくる。  

「大村も頑張って」
とわざと冷めた感じで言った。
「おまえ興味ないだろ」

そこで初めて3人で笑って、
懐かしい同級生に戻った気がした。

昔はよく大村に怒られた。
もっと堂々と前で見に観ればいいのにと。
16歳から19歳。少しだけ大人になった。
青空ものとで佐野くんを応援できるようになった。

佐野くんを初めて見たとき。
走りがすごかった。
カモシカのように長くて細い脚を、前へ前へ進める。
跳躍力があり一歩が大きい。
都会のビルに囲まれた、古い校舎のグランドで
広大な草原を駆け抜ける
美しい野生動物みたいだった。

(肉食動物でなく、なぜか草食動物のイメージなのだけど。。)

彼がアスリートとしてカッコよく、美しかったその時代を見ている、というのは大きい。

小さい頃に夢中になった人や好きになった
もの。
あやふやで頼りないもののようで、実は自分の本質をついているような気がする。
実は、青春時代が全てなのではないか。

真剣モードから、走り終わって仲間と雑談モードに入ると
急に年下のようなかわいい笑顔になる。

そんなところもたまらなく好きだ。

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