パパは トイレトレーニング中⑥
ドリルです。
目を開けると 僕は山の中……昨夜 ちゃんと家で寝たはずなのに………なぜこんなところで……記憶がない……だけど、どこか懐かしい……。
辺りを見渡すと一匹の犬が こちらを見て尻尾を右へ左へと忙しそうに振っている。
その犬には 見覚えがあった。
僕が 小さい時に アパートの管理人のオバチャンが飼っていた秋田犬のコロだ。
『コロ!』
……と、思わず名前を叫ぶと、
「ワン!!」
…と嬉しそうに吠え ヨダレを垂らしながら 僕に抱きつき ぺろぺろと顔をしゃぶり尽くしてくる。
『おいっ!ちょっと くすぐったいって!ぺろぺろやめて!ぺろぺろやめてぇー!!』
そういうと コロは ピタッと舐めるのをやめ耳をピンと立てて辺りを警戒している。
どうやら僕の声で舐めるのをやめたのでは なく辺りのただならぬ気配を感じて警戒し出したようだ。
コロの視線の先を見ると ガサガサと木が揺れ 緑の奥から頭の毛が真っ赤で右目の潰れた大きな熊が こちらとの間合いを測りながら のっそりと近付いてくる!
『あ…あっ………くっ、くまやぁー!!』
思わず 大きな声で 叫ぶと同時に
「ギャン!ギャンギャン!!」
と、コロが けたたましく吠える!!
そんな、威嚇を全く気にすることなく隻眼の巨大熊は、僕達の前まで歩み寄って来た。
『こ……コロ……ころされるぅううう!!コロ!!コロォォオ!!
………ごめんぇーーん!!』
僕は 抜けそうな腰を何とか堪えて立ち上がり コロが巨熊に立ち向かってくれてる間に 振り返りもせずに走った!
「キャイ〜ン……」
という声だけが僕の背中に突き刺さったが
『堪忍や……堪忍やデェぇー!!!!』
と言いながら緑の中を懸命に走り続ける!
息も絶え絶えに崖まで辿り着いた。
崖の下には 川が流れている。
ここまで 来れば大丈夫だろうと息を整える為に しばらく座り込んでいると……
ガサッ……ガサガサ……
っと緑が揺れる音がする。
緑の間からは ユラユラと赤い毛が見える!!
『あっ……あの熊なのか?』
僕は 全身汗びっしょりになり ジリジリと崖ギリギリまで座ったまま後退りする。
そして、緑の木々が激しく揺れ そこから飛び出して来たものは………
『ワン!!ワンワン!!』
なんとコロだった!!
『そうか!コロは 絶・天狼抜刀牙が使えるようになってたのか!!』
コロは絶・天狼抜刀牙によって見事 巨熊の首を取ってきたようだ!!
僕は 嬉しくなって立ち上がり コロに抱きつこうと地面を蹴ったその時!!
ガラッ…ガラガラガラガラ……
崖の端が崩れ去り 僕は、そのまま 川へ落ちてしまった……
川の中で僕は 腰の辺りから 生暖かい感触がした……
『あぁ………そうか……』
僕は 全て思い出し ゆっくりと目を開けた……
いつもと同じ 部屋の寝室の天井が見える………
やはり………パンツが濡れている…………
小さい時 この夢を見た時は 決まってパンツを濡らしていたものだ………
しかし、大人になった僕は 上を向いて寝ていたので布団までは 濡れていない……
掛け布団の方は 暑かったのか奇跡的に跳ね除けていたようで 被害は なさそうだ………
『これは 隠蔽できる。』
僕は 静かに起き上がり子供達と妻を起こさないよう 洗面所に向かう……
ひとりぼっちの夜 ありのままの姿で スキヤキソングを口遊みながら パンツを洗う。
何事も無かったように 僕は それを洗濯機に放り込み もう一度眠った…………。
この話の本当度 100%
結局 洗濯物を干す時にパンツが増えているのに気付いた妻に問いただされ お漏らししたことを隠し通すことはできませんでした。
パパは ただいま42歳……まだまだトイレトレーニング中!!
要は 大の大人が小を漏らすという どうしょうも無い お話でした。