しまうま電車
*特に意味ないです。
俺の苦悩が冗談にされている。
冗談でした、で済まして笑われている。
誰も俺の見てくれを馬鹿にしていないというポーズを取っているが、実際はどうだ。ずっと馬鹿にされている。
冗談なんだけど、と文末につけて彼と僕は交互に殴り合っている。血の滲んだ匂いが煙みたいに回ってきている。次第に骨の突き出したところが瘡蓋になっている。
瘡蓋のひび割れたところからこっちを覗き見ている。実感するまでのタイムラグをうまく利用して、その場をやり過ごすのはもうやめてくれ。薬も酒もやっていない、ましてやフィクションだらけのドキュメンタリーじゃないんだよ。動悸がしているのは、持病のせいなんだ。決して僕が薬を酒で流し込んだからじゃないんだよ。
小型犬がずっと俺の方に尻を向けて、降っている尻尾を俺に見せてくる。すごい速さで左右する尻尾を見ていたら、目が回った。目が回って、時計がたくさん見えた。紫色、青色、赤色、趣味の悪いCGのビデオを見ているみたいに、ぐにゃぐにゃぐにゃ。仕事の帰り、コンビニでコンビニブランドの発泡酒を買った。泡が噴き出て、スーツについた。くそ。勿体ないじゃないか。帰宅する道、これは進んでいると言えるのか、帰っているわけだから、進んでいるのではなく戻っていっているんじゃないかな。そういう意味では一度でも何か進んだ試しがなかったのかもしれない。出さないといけない郵便がなんだったか思い出せないんだ。ずっと、何かを出し忘れている感じだけしている。俺は元々何かを送らないといけない、そういうタスクを抱えていた。いくつもタスクを抱えていたうちに俺はいつのまにかどれがどれだから見分けがつかなくなってしまった。細かいいくつもが最終的に大きい一つになってしまった。でもいいよ、これだめこなしていれば間違いない。何かが燃えている匂いがして、俺は目を覚ました。タバコの後始末を失敗してしまい、カーペットに火が移ってしまって、今テレビ代に到達しそうになっていた。慌てて、掛け布団で叩いて火を消した。よかった。ちゃんと消えた。俺は正気を取り戻したみたいで、頭が痛いだけだった。水を飲もう。コップを台所に取りに行った。蛇口を捻って水を入れた。コップは使い古した、くすんだ色をしていた。
布団に横になった。頭が痛い。全部冗談、全部冗談だったんだ。好きに暮らそう、そうだ漫画を買おう、さいとうじゅんいちろうを買おう。南米紀行を買おう。
僕はペットボトルの残りかけの水を飲んだ。かびていた。冗談。冗談だよ。
ペットボトルには吸い殻、水が真っ黒になっている。冗談。大丈夫だよ。
指紋を炙っていた。指紋が大きい一つになって、人じゃないみたいだった。綺麗な革みたいだった。革細工でも始めようか。
冗談だよ。大丈夫。大丈夫だからほっといてください。
俺の見た目をバカにしたやつに指を押しつけて大きい指の跡をつけて、夜の電車に乗った。ホームにはフクロウがいて、黄色い目をしていた。しまうまみたいば模様の電車がホームに滑り込んできて、俺はそれに飛び乗った。全部冗談だったんだ。
無職も立派な仕事ですよ。とフクロウに言われた。彼も俺とだという。俺は言ってやった「でも俺は税金を納めなきゃだからな」フクロウが「僕だってそうですよ」と言った。俺とフクロウは笑っていた。「今日の夜は狩りをしにいくんです」フクロウは綺麗なくちばしをカチカチと鳴らしていた。
無理矢理駅ではないところに降りた。体を捻り出して、飛び降りた。体は慣性を保っていたのですごい勢いで地面に叩きつけられてしまった。痛みと頭痛で笑えた。涙が目の奥から出てきて、泣いていた。しまうまみたいな電車はそのまま暗闇に消えて行った。
酒が飲みたいな。