今夜、星の降る場所で
小さくなっていく江ノ電を俺は寝ぼけまなこで見送った。
駅の古ぼけた椅子に腰掛け、俺は海を見ていた。
海の向こうはキラキラと反射し、俺は眩しくなってくしゃみをした。
「あいつ、泣いてたな」
大きな黒縁眼鏡をしているときは、あいつが前の日に泣いたときだ。
隠れ家って言ったら、あいつ「へ?」ってすっとんきょうな顔してたな。
「…忘れちまったんかな、あいつ…」
戻って店の準備をしていると、おふくろが上から降りてきた。
「めずらしいじゃない、手伝ってくれるなんて」
「まあね」
カウンターにホットを一つ。俺の分だ。
「この間、奈々ちゃん来てくれたのよ」
「しょっちゅう来てるだろうよ」
「お母さん、あんたのことはもう気にしなくていいって言ったの」
危うくコーヒーを吹くとこじゃないか。
「何勝手に親が話つけてんだよ」
「だっていつまでたってもあんたは奈々ちゃんを大事にしないしね」
「大きなお世話だよ」
「あたしはねえ、あんたの母として言ったんじゃない。奈々ちゃんをずっと見守ってる立場として言ったんだからあんたには関係ないわよ」
「勝手だな…」
「勝手なのはどっちよ」
スマホの通知が鳴った。真紀ちゃんじゃん。
反射的にLINEを返す。俺が誘われるって結構珍しいシチュエーション。1時からなら、まあ、間に合うよな。
「俺、ちっと出てくるわ」
「オンナだね」
「勝手に決めんな」
おふくろは俺の心は簡単に読めるんだそうだ。
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