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スシバトラーEIGHT 〜KURA決死戦〜

11月、都内某所。
木枯らしを避けるようにコートの襟を立てて進む。
夜風が俺を責め立てるように吹く。

戦え、戦え━━━━━!!

気付けば俺は戦場のドアをノックしてしまっていた。


無添、くら寿司
ここはスシバトルの為に創業された対戦寿司店だ。
心なしか店外にも殺気が漏れ出しているように感じる

スシバトルは知っての通り、回転寿司で隣の客を勝手に仮装敵にして
注文で勝った気になったり負けた気になったりする、
狂気と知恵の支配するマインドゲームだ。

無機質なマシンからオーダーバトル番号を受け取り、カウンターに着く。

「一人か…。」

俺は2つ左隣の高齢女性を横目で見る。俺とほぼ同じ着席のようだ。
ババア相手じゃあ戦いにならないだろう、少し手を抜いてやるか。
そんな顔をして俺は最初の注文をした。










まさかの…

あん肝…!!



しかも2貫…!!


俺は誰であろうと容赦はしない。
席に着いた瞬間あん肝2貫、これでビビらないヤツはいない。
スシバトルは相手にオーダーを羨ましがらせるか、ビビらせかをするとポイントが入る魔の競技。
同じ寿司を2貫頼むのはダブルダウンと呼ばれる高等テク、そこにファーストオーダーボーナスが加算され俺の得点は6億900万点となる。

そうこうしているうちに、俺の左隣にOL、俺の右隣にキャップのガキが座った。
各々が湯飲みに粉のお茶を注ぎ、びっくらぽんをオフにする。
なるほど、ノーゲームでプレイするワケか。

次の俺のオーダーは季節の寿司。
ホタルイカの沖漬け塩ハマチ等、風変わりだが王道なスシを入れていく。
ここでハンバーグやイベリコ豚を頼むヤツは素人だ。
序盤でダイナミックなカードを切ると後半でしょっぱい奴だと思われるからな…。

順調にオーダーを重ねる中、左隣の女が仕掛けた。
ベルトコンベアーを時速350kmで流れる白い流星。

そう、シーフードサラダ
一見子供っぽい寿司だが、サラダの名を冠すだけの事はある。バトラーと言えど5~6皿食った後だとちょっと別のモノが欲しくなるのだ。
そこにねじ込んでくるシーフードサラダ。

俺は今回は素直に得点を譲り、すかさずシーフードサラダを注文。
隣のヤツと同じ寿司を頼む"ジェミニ"というテクニックだ。
こうすることで3番目以降の奴は頼みにくくなり、かつ俺は少量のポイントを獲得できる。

(ここは手堅く行かせてもらいますよ。)

俺がそう思いながらレーンのポン酢で熟成フグ一貫コンボを狙うその時。

アクシズが落ちてきた。

レーンを通り過ぎる巨影。
ダークマターのような漆黒。
その正体は。

天然だしうどん(平日限定)

しかも注文者は既に死んだと思っていた、2つ左隣のババア。

「クソっ!!やられた!!」

思わず心の中で叫んだのもつかの間。悪夢は終わらない。
遠くから再びアクシズ迫る。

キャップのガキに、
天然だしうどん(平日限定) 着丼。


俺は隣の女と心の中で顔を見合わせる。
ハメられた。

今の提供速度でババアのオーダーを見てから天然だしうどん(平日限定)を頼むのは不可能。
つまりほぼ同時に頼んでいるとしか考えられない。

こいつら、グルだ。

オセロのように挟まれ、25℃の最適な空調の店内で俺は冷や汗をかく。
ヤバい、焦るな、オーダーを。次の命令(オーダー)を...!!
震える手でタッチパネルを操作し、起死回生の一手を指す。


完全にミスった。
気が動転し意味不明なスシをオーダーしてしまった。
ポイントは0どころかマイナス、更に胃のキャパシティも削られていく。
だが今さらうどんを頼むワケには…。

だが視界端から、再度巨影襲来。

「バカが…!!早まったな!!」

汁物は1皿までなら良いが2皿目以降は単なる寿司屋でサイドをドカ食いするバカだ!!
俺と女にトドメを刺そうと愚かな一手を打ったな。
さあ、マヌケはどっちだ!!ババアかガキか!!

光速でスライドする天然だしうどん(平日限定)

その歩みは、俺の隣。
女の目の前で止まった。

へ…?

突然の、裏切り。
グルだったのはガキとババアだけじゃない。
打ちひしがれる俺に、更に、
追い打ちをかけるように
つい5分前にガキの右隣の席について沈黙を続けていたサラリーマンの目の前に、アレが到着。

天然だしうどん(平日限定)

あああっ!

カウンターの並びは"敵 敵 俺 敵 敵"。
俺以外全員がズルズルとうどんを啜る、正に四面楚歌。
地獄。

すがる思いでタッチパネルをフリックする。
既に10皿目の俺が今からキャパシティを無視してうどんを食う事は不可能。
だがもう奇を衒ったスシやスイーツ程度で挽回できる点差じゃない。
終わりか…。
会計ボタンを押しかけたその時。

『もう、諦めんのかい?』

声が聞こえた。
俺の後ろから、優しげな声。
「あ、あなたは━━━━!!」

代表取締役社長

『田仲邦彦です。』
くら寿司創業者、田仲邦彦氏の幻覚だ!!

無添加にこだわり安全なお寿司を安価でご家庭に届けてくれている回転寿司の巨人の声援により、俺は起死回生の一手をポチる。

来い、■■■■■■!!

旧き友の名を呼び、コンベアーを聖なる白き天馬が書ける。

シャリコー…

あまざけ風サイダー

何度コケてもくら寿司のシャリコーラへの思いは死なない。
ここに来ての炭酸飲料はうどんを食っている連中からすれば喉から手が出るほど欲しい逸品だ。
しかも、コーラやジンジャーエールではない、得体のしれないシャリコーラ。ビビっているのか…?

全員の動きがコンマ1秒止まる。
その隙にすかさず、追加注文。
スイーツ系はすぐに来る。

店内にこれでもかとポップが出ていた感動のプリンだ。
ここでスイーツコンボを発動し、一気に俺はスシバトルの頂点に躍り出る。

結局スシバトルは最後に一番おいしそうなスイーツを頼んだ奴が勝つ。

個のオーダーで戦意喪失したのか、ババアとキャップのガキは早々に会計。
俺は悠々と会計を済ませ、店内を勝利の凱旋だ。

そのはずだった。

帰り際、俺は脇役でしかないヤツの決済画面を見た。
見てしまった。
いつの間にか席について、うどん4で俺を追い詰めいつの間にか帰っていたあのリーマン。
ヤツのタッチパネルを見て、俺は失禁した。





天然だしうどん(平日限定)         1点 200円




                      合計 200円





コイツうどんしか頼んでねぇ!!


みんなも平日は回転寿司店に行って、スシバトルをやろう。

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