君たちは… 感想
ジブリ作品に漂う暗さは紛れもなく“死”からくるもので、それはおそらく宮崎駿氏が戦争経験者であることと切り離せないでしょう。氏は1941年生まれだそうですから、真っ只中ではないながらも記憶に刻まれた色々があるのだろうと思います。そういう意味では、こういう作品を作れる人はもう出てこないかもしれません。
事前プロモーション一切なしというのが話題の本作。HPもないのでどの声優が誰役だったのかさえ確かめようがない(笑)まぁなんとなくわかりますが。
ーーー以下、内容に触れているので、避けたい方は避けてくださいーーー
鑑賞直後の感想として「なんでこのタイトルに?」というのがまずひとつ。内容は、『海辺のカフカ』と『ねじまき鳥クロニクル』を足して割った要素を感じる。駿氏の自伝的な感じもあるのかなぁ。どうだろう。ちょうど村上春樹氏も自身の集大成(過去作品のモチーフが多用された)的な作品を出されたタイミングで、なんか奇遇だなと思った。
主人公マヒトが完全な善じゃないのがよかった。そしてそれを自覚していることも。それでも積み重ねなくてはいけないこと。いずれ火の海になるかもしれない世の中でも。
彼は“お母さん”たるヒメコ(だったかな)に「お前は本当にいい子だね」と言ってもらって、救われたんだと思う。そして“ナツコおかあさん”と心の中で折り合いをつけた。
お父さんとナツコの馴れ初めが気になる。おそらくマヒトお母さんが亡くなって、妹が後添いになったパターンだと思うが。戦前はよくあったこと。それにしては随分気持ちが通じてそうだったのが気になるが。
「御一新前に落ちてきた」という塔は“資本主義”の象徴か?それのために多くの人が死んだ。
鳥、特にインコやペリカンは衆愚・無知の象徴か。表情・言葉のないペリカンと血気盛んに次の獲物を狙うインコやたち。光のない目。その王は幼稚な勇敢さで、怒りに任せて繊細なバランスを保ち成り立っていた世界を分断した。パンパンに膨れ上がった悪意。無知な大衆と悪意の親和性の高さ。彼らは現実世界では明るく綺麗な姿をして、そこいらじゅうに蔓延っている。
そしてそのインコやペリカンからマヒトを守ったアオサギの羽。最もよく喋る鳥はあるいは嘘つきかもしれないが、裏を返せば嘘をつくだけの知性があるということでもある。親切がアオサギとマヒトを繋ぎ、最後は“友だち”にまでなった。最初は死後の世界へと…死の誘惑へと…誘う存在だったかもしれないが。知性の二面性。
この世を滅ぼす悪意を無効にするのは、善意の積み重ねと親切に基づいた知性だということなのだろうか。そして気にかけてくれる存在が、あなたを、誰かを悪意から守る。
世の母親が子に望むことなんて、「優しく賢く生きて」くらいのことなのかもしれません。
分かりやすいパッケージではないことは確かです。それも含め、「君たちはどう生きるか?」という駿氏からの問いかけなのかと。前の席に座ってた高校生?は「謎だ…;」つってましたが。
お読みいただきありがとうございました。今日が良い日でありますように。