指輪から
生前、母から指輪を譲り受けた。婚約指輪で、母の誕生石で、長女に受け継いで欲しかったよう。もらった当時は、こんな古臭いデザインの自分の誕生石でもない指輪を、しかも長女に受け継いで欲しいだなんてその考えも古すぎる、と反発しかなかった。
今年、母が亡くなって二度目の夏の朝、指輪を初めて自分の左手の薬指にはめてみた。その途端、父と母の、その当時の気持ちや思いでみるみる心がいっぱいになり、涙があふれてきた。それは抗いようのない、怒涛のような勢いで、ああ、私は本当に望まれて生まれてきたのだということを、全身で感じることができた。予想もしないことだった。
両親が亡くなってから分かることもたくさんある。生前に悔いのないように、という親子関係ではなかったが、悪くはない。未だ母の呪縛は残るものの、基本的には、感謝と有り難みを感じている。
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