【短編小説】桜色の日常に紙袋を抱えて
女性パートと男性パートに分かれたオムニバス形式です
🌸桜色に染まる日常
長い髪を、お団子に結い上げ
貴方の帰りを待つ
貴方が好きだと言ったから
ずっと、この髪型をしている
貴方が似合うと言った
あの日から ずっとだ
ゴムを口に加え、両手で髪をたくし上げる仕草がセクシーだと
貴方は言った
髪を結う度に貴方の言葉を思い出し頬を、 桜色に染めてしまう
少女のようにハニカミ
乙女のように心トキメク
そんな自分が鏡に映るのだ
後ろ髪を確認する為に、くるくるっと回ってみる
回るとフレアスカートが、ふわっと広がり裾がゆれる
「あははっ私ったら年甲斐もないわね」
急に恥ずかしくなってスカートを手で押えた
そろそろ あの人が帰ってくる
シチューを温め直さないと♪
くるくるっと、お玉を回しながら鼻歌を口ずさむ
湯気でメガネが 、くもってしまう
あっ そう言えば 彼とケンカ中だった
♪ピーンポーン
玄関扉が開く
「貴方…
おかえりなさい♡ 」
🍀紙袋を抱えて
今朝の彼女は、不機嫌だった
お弁当を渡してくれたのだが…
"つっけんどん" で目も合わせてくれなかった
理由はわかっている
昨夜、彼女を『お前』と呼んだからだ
「私は、貴方の所有物ではありません!名前があります!」
と言ったっきり口をきいてくれない
「すまなかった」と、すぐ謝罪はしたのだが…お気に召さなかったようだ
花をプレゼントしたらどうだろう?
いや…彼女の好きな花も知らない
ちょっと大げさすぎる気もするし、何よりも恥ずかしい…
うーむ…どうしたものか
スーパーの前に屋台が出ていて
暖簾(のれん)の『たい焼き』の文字が風にゆれていた
たい焼きなら彼女の好みは覚えている
餡子(あんこ)の一択だ
もっと気の利いた物をよこしなさいよ!と言われてしまうだろうか…
考えたってしょうがない
成せばなる!
当たって砕けろ!
たい焼きの入った紙袋を抱え彼女の元へと急いだ
♪ピーンポーン
玄関扉を開ける
「ただいま」