【短編小説】ルーズリーフの手紙
机の引き出しがスムーズに開かない
何かが奥のほうで つっかえているようだ
針金ハンガーを使って たぐり寄せると私が書いた手紙だった
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中学生の頃、手紙を書くことが流行った
手紙と言ってもルーズリーフや便箋に内容を書き
長方形やハート型に折り畳まれたモノを私達は、手紙と呼んでいたのだが…
その手紙のオモテには
「〇〇さんまで回してください」と書かれている
授業中に、あちらこちらで手紙が発生し あちらこちら飛び交った
上手く回らず途中で床に落ちてしまうモノや先生に没収されるモノが数多く存在した
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私の長方形の手紙には何が書かれているんだろう
誰に宛てて書いた手紙なのだろう…
オモテには何も書かれていなかった
ルーズリーフの手紙を開いてみた
『スキです 』と 真ん中に小さな文字で書いてあった
この頃って…だれのことが好きだったんだっけ?…
卒業アルバムを押し入れから引っ張り出してページをめくる
私のクラスのページだ
私は どこかな?
私だっ!!
おかっぱ頭だw
この頃は、お父さんが私の髪の毛を切ってくれてたんだよね
それが嫌で嫌で、何度か母に「美容院に行きたい」と願い出たことがある
「まだ美容院なんて早いわよ
お父さんが、せっかく切ってくれてるんだからさっ」
そう軽く あしらわれたっけなぁ
坊主頭の小柄な男子に目が止まった
「あっ!!この子 」
ニコニコ笑顔で、ちょこまか可愛らしく動いていたっけ
アダ名は『ハムスターのハムちゃん』
クラスの皆んなの弟みたいな感じの子だった
だから、からかわれたりもした
それでも何事にも一生懸命で真面目に取り組んでいた
そんな彼のことを当時 好きだったことを思い出した
この手紙の状態からすると
便乗して勢いで書いたものの
回す段階になって怖気付いたのか
恥ずかしくなって諦めたんだなぁ…
そういえば、中学の同窓会の招待ハガキが届いていたっけなぁ
無造作に靴箱の上に置かれた手紙やチラシの中から、お目当てのハガキを探す
私は、ずっと[欠席]で出していた
今年は行ってみようかな?
ハムちゃんは来るだろうか?
ふと、そう思った
[出席]を〇で囲み
その下に[よろしくお願いします]と添えた
不安と期待を持ちつつ
少し折れ曲がったルーズリーフの手紙を手で伸ばして整えた