【短編小説】セイフティー
標準を合わせる
息を整えながら…
ついに ついに
ここまで来た
早まる鼓動
銃を持つ震える手
ここまで来て怯(おび)えているのか…
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
両親の最後のことは
脳裏にこびりついている
父は、後部座席で私に覆いかぶさりながら
「怖くない大丈夫だいじょうぶ。
神がお前を加護してくれる」
と言った
母は、肌に離さずつけていた十字架のネックレスを私に手渡しながら
「アナタは私達の光り。
光りの子の未来に栄光あれ」
と言った
二人とも私を怖がらせないように
笑顔で…笑顔で天国へ旅立った
忘れられない記憶
幼かった私は、叔父に引き取られ
忙しかった叔父の代わりに世話してくれたのが『ゴッド』 だった
彼とも彼女とも言えない容姿
穏やかな眼差し
心地よい声
両親が言っていた神とは
この人のことだと思い込んだ
信頼できる 唯一の存在
神そのものだった
私にとっては…
いつしか信頼は愛情に変わっていた
私はゴッドに恋をしていた
いつしかゴッドも
私のことを愛してくれていた
家族愛ではなく
性別をこえ
年齢をこえた愛
あの日交わした契り
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
なにが起きてるのか わからなかった
なぜ…目の前に…ゴッドが…
両親を死に追いやった黒幕は
叔父だったはず…
早まる鼓動
息ができない
お願い嘘だと言って
声にならない声
お願い…お願い…お願いっ!!
引き金を引いた
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「セイフティーレバーを外さないと
撃てませんよ。」
鈍(にぶ)い金属音を鳴らしてゴッドは
セイフティーを外す
そして 銃口を自分の額(ひたい)に当てながら
「ほら、コレでアナタにも撃てるでしょ !? 銃に慣れていないアナタでも大丈夫ですよね ?」
と言いながら微笑む
私はブルブルと震え
銃を持っていられなくなり
落としかけた
ゴッドは私の手を支えるように包み
私の指に自分の指を重ねるようにしながら引き金を引いた
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
指や手のひら腕にズシッと伝わる
重みと反動
むせるような火薬の匂い
私の腕の中でゴッドは
穏やかな微笑みを浮かべたまま
死んだ…
私の愛する人は
信じた人は
『神』だった
私にとっては神そのものだった
両親が死に際に言っていた神は
腕の中にいる 人間の姿をした
この『神』だ
もし両親が熱心に信仰していた神が
他にいるのならば
なぜ 両親を見殺しにした!?
なぜ 私が愛した人が死ななければならないんだ!?
なぜ ゴッドが黒幕なんだ!?
なぜ こんな仕打ちをするのだ!?
…なぜ なぜ なぜ…
神が存在するのなら いま現れてみろっ!!
私が『光りの子』と言うのなら
いまこそチカラを表す時だろがっ!!
どうして どうして どうして…
母からの形見の十字架を
かなぐり捨て叫んだ
「私は、愛する人を奪った神を
許さない!」
光りの子と言われ愛された
ひとりの人間は この時
黒光りする人の容姿をした
化け物と化したのだった