【エッセイ】エスカレーターの思い出
私が幼い頃 エスカレーターに乗るのが怖かった
足を踏み入れると奥へ奥へと吸い込まれる感じがしたのだ
暗闇の世界へと連れていかれそうな気がして怖かった
私は怖くて父の腕にしがみつき
「ダメダメ」と首を振り、その場で固まってしまった
すると父は「せーのっ!ぴょんっ!」 と言った
楽しそうに歌うように言ったのだ
えっ!と父の顔を見るとニコニコしている
「さぁ お父さんと飛んでみよっか!?
手を繋いでてあげるから」
私は、やっぱり怖くて父の手をぎゅっと握る
「せーのっ!ぴょんっ!」
首を振る私
「せーのっ!ぴょんっ!」
私は父の手を離し両手を伸ばして「抱っこして」と言った
「抱っこしないよ。お前なら出来るよ」
父は頑(かたく)なに抱っこしなかった
後ろからやってくる人達に「すみませんね」 と謝りながら先に行かせた
「せーのっ!ぴょんっ!」
「ほら 楽しいぞ。行くぞ」
「せーのっ!ぴょんっ!」
私は目をつぶり意を決して
その言葉に合わせて ぴょんっ!
と両足で飛ぶ
すると、すーっと上に登っていく
「目を開けて見てごらん」
父に言われ目を開けると、さっきまでとは違う景色が広がっていた
さっきまで居たところは、はるか下にあった
流れて行く景色がキラキラして見えた
下にいる人がミニチュア人形みたいに見えて面白かった
大きくなったような偉くなったような感じがした
きっと出来たという事で気が大きくなったのだろう
登り終えて父は私の頭を撫でてくれた
それからは私はエレベーターを怖がることはなくなった
私には魔法の言葉があるから
「せーのっ!ぴょんっ!」は
魔法の言葉だ
怖い物から楽しい物に変えてくれた
そして勇気をくれた魔法の言葉だ