「夏の飲み物」 けっち
Photo by Matt Hoffman on Unsplash
先週、平日の夜に妻と鉄板焼き屋へ行きました。もんじゃ焼きやお好み焼き、焼きそばが本来はメインのお店で、すだれで個室風にしきられた各テーブル席に鉄板がしいてあるのですが、鉄板料理だけの店じゃないんです。日替りのオススメという別紙メニューにずらり並んでいるのはその日に店主が仕入れた魚や酒のつまみがならんでいて、実はこっちが我々のメインなのでした。
僕はその日、ひさしぶりにアサヒのスーパードライの瓶ビールを注文して、妻とグラスで乾杯しました。その鉄板焼き屋は日本酒の品ぞろえが豊富なので「とりあえずビール」でのどを潤したあと冷酒にすすむつもりだったのです。ところが、このスーパードライをゴクゴクと一口飲んだ瞬間に
「うまいなー、いや、うまいなー」
と声にだして、感動してしまったのでした。以前も書いたかもしれませんが、スーパードライを飲むのはすごくひさしぶりです。最近はもっぱらワインを飲んでいるか、炭酸でハイボールをつくることが多くて、ビールはひさしぶりでした。こんなにおいしいんだ、と驚きました。それから店でしめている炙りしめサバと海ぶどうがやってきて、しめサバを一口たべてビール。海ぶどうをぷちぷちやりながらビール……と楽しんでいるところに馬刺し(バラ)がきて、馬刺しに悶絶しながらビール…と無限に続けられる愉楽な時間になっていたんですが、いやあ、こんなにビールって料理にあうんだと感動したのは、季節がそろそろ30度前後の初夏の夜だったからかもしれません。夏といえばビールというのは頭でわかっていたんですが、こんなにおいしいビールもひさしぶりでした。瓶もよかったのかもしれない。
一般的にサーバーからそそぐ生ビール! がビールのイメージではありますが、昔ビヤホールでアルバイトをしていたことがあるので、生ビールのこわさもしってます。生ビールはそのビールをとおす管の掃除が大事だったり、ビールをだす圧が大事だったり、もちろん泡を自然につくる(プッシュでつくる泡はおいしくありません)ことだったり、いくつものこだわりポイントを通過して完璧な生ビールが完成します。その点、瓶ビールはいい。瓶ビールこそ、ビール会社の生ビールと自分が1on1で向きあう場だとおもっています。
それはさておき、じゃあ夏の飲み物といえばビールなのかと言われると、僕はどこかで「アイスコーヒー」と言いたい自分がいます。それもちょっと気取っていいとするなら、浅煎りのキューバ・クリスタルマウンテンのサイフォンでいれたてをたっぷりの氷をいれたワイングラスに一気にそそいでつくる出来たてアイスコーヒーを、汗をながした夏のある日に冷房のきいた店のカウンターで汗がとまるのを待ってから飲みたい、というものです。
ちょっとマニアックでキザかもしれません。でも、これがほんとうにおいしいんです。
以前、本格派の純喫茶で働いていたことがあるとは書いていますが、そのときの同僚と、夏にのむ美味いアイスコーヒーはどれか、ということを研究?していたことがあります。一般的にアイスコーヒーというのは、あまり香りがない安い豆を焙煎するときに最大限に熱して、焦げ茶色まで焼いたイタリアン・ローストとよばれる状態の豆をつかっていれることが多いです。すごく濃くて苦いので氷をたっぷりいれたグラスに注いでもコーヒーが負けないし、カフェオレにしても牛乳に消されることがないからです。
でも香りやワインのような味がすることはいわゆるロブ種の豆にはありません。だから僕と同僚が考えたのは浅煎りの、ちらっと火をとおしただけの焼き具合で、フルーティーといわれる豆のもつ旨みたっぷりのアイスコーヒーはどうだろうか、ということでした。でもこれをドリップでいれると、お湯の温度が若干低いので、コーヒーの香りがいまいち薄くて(弱くて)かつ、宙ぶらりんになってしまった。そこでサイフォンです。サイフォンはドリップコーヒーとちがって、沸騰した湯で一気にコーヒーをつくりあげていきます。高温だからこそ、その豆の香りをすべてひきだせるのです。
ウンチクはさておき、サイフォンでいれるキューバ・クリスタルマウンテンのロックアイスのコーヒーは本当にうまい。フルーツにたとえる人が多いですが、わかりやすいのはワインですね。ワインのように芳香で濃くがあり、舌のうえでコーヒーがおどる感じが消えません。そして、それはキューバのイメージにもつながります。そこに広がる景色は夏です。暑い外の気分を一瞬で和らげ、夏の暑さの良いところだけを浮かびあがらせてくれるアイスコーヒー。もし名店の珈琲店に行くことがあれば「浅煎りの珈琲豆(←ここが重要)で、できればサイフォンのできたてでつくるロックアイス」をオーダーしてみてください。これこそ夏だ! な一杯を楽しめると思います。今日もありがとうございます。