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「豚汁」けっち
Photo by Simon Daoudi on Unsplash
うちの実家では「豚汁」がでてこなかったので、豚汁のことを知ったのはたしか小学生のころ入っていたボーイスカウト(カブスカウト)の冬の合宿かなにかでデンマザー(ボーイスカウトの保護者たち)がつくってくれた豚汁がはじめてだったと思います。そのとき「今日はトン汁です」と言われて、それが何かさっぱりピンとこないまま食べたら、「ん、味噌汁? 具沢山の味噌汁?」と思った記憶があります。もちろんおいしかったです。
でも、僕のなかで豚汁はどことなく珍しい味噌汁という認識のまま時が流れていきました。
数年前、いろいろ事情があって妻と遠距離生活をしていたことがあります。そのとき、よく働いていた飲食の仕事がえりに牛丼屋によりました。僕は「今から牛丼たべるわ」と妻にLINEをしたのですが、そのたびに「豚汁も食べて! 牛丼だけじゃ栄養がかたよるよ!」と返信がきました。
僕が行っていた牛丼屋とは中洲の駅前にある松屋だったのですが、それ以前は松屋で牛丼(松屋では牛めしとよびますが)だけしか注文しなかったのですが、いつしか豚汁もたのむようになり、ある時期から豚汁はマストになりました。ふりかえると数年前のことですが懐かしいです。
子供のころ、豚汁にピンとこなくて、大人になって以降もとくに豚汁を食べようとは思ってませんでした。なぜかというと、豚肉を食べたいときは豚料理を注文するか、つくるかしていたからです。味噌汁にわざわざ豚肉をいれなくてもよかったからです。牛丼屋でもそうです。牛丼だけでよかったのです。わざわざここで味噌汁よりも高い豚汁をたのむことになんのメリットも感じませんでした。
でも、あのころ、とくに寒い冬の夜の天神や中洲あたりを歩いていると、体は冷えます。腹もへります。牛丼だけガーッと一気に食べると、お腹はいっぱいになるのですが、いっぱいになるのが急すぎて、おなかはいっぱいなのに、心が満たされない。せっかく仕事が終わってホッとしたいのに、なにか寂しいまま退店することになります。
豚汁を牛丼といっしょに注文すると、なぜかその虚しさが消えていきました。それは僕が完全に豚汁を誤解していたことに気づいたからです。豚汁はぶたが主役ではなかったのです。ぶたを食べたいなら豚料理を注文すればいいと思っていましたが、豚汁の主役はさまざまな根菜にあったのです。さといもやにんじん、ごぼうやだいこん。そのゴロゴロ、ゴツゴツしたものが、あったかい味噌汁で煮込まれ、それを口にいれると根菜ならではのどっしりとした食感がのこります。なにか、ずっしりと深く食べているかんじがするんです。
牛丼がタレと肉でごはんを一気にながしこむように食べるのを、豚汁はストップかけてくれます。牛丼をひとくち、豚汁をひとくち。この豚汁に七味唐辛子をいれるようすすめてくれたのも妻でした。七味をいれると、豚汁の汁の旨味がひきたってきます。そして最後に「ぶた」の部分。豚汁の主役は根菜ですから、そんなに豚肉は入っていません。でも少量の豚肉とその豚の脂が豚汁をただの味噌汁とは決定的にちがった料理にひきあげています。
そんなわけで、ぜひ牛丼屋にいくときは一緒に豚汁を注文してみてください。これは本当に美味いと僕は自信をもっておすすめします。