『恨みを買う〜ある心スポマニアの悲劇〜』
恨みを買うと言うと
人間と誰もが思う。
だが恨みを買うのは
何も人間だけとは限らない。
時には思いも依らぬ者からの
恨みを買う事もあるようです。
或る舞台俳優が初主演の舞台の
稽古最中に体調不良を訴え、
そのまま長期入院となり、
舞台降板をせざるを得なくなった。
初主演舞台を断念せざるを
得なかった俳優は酷く落ち込み
自暴自棄になっていた。
そんな時、偶、同室の
見舞客にお坊さんが居て
彼を見るなりじっと凝視し
一言彼にポツリと漏らした。
『其方○○寺に最近
参られなかったか?』と。
舞台俳優は驚いて頷いた。
実は彼は心スポマニアで、
舞台稽古の最中にも関わらず、
休日に日帰りで心スポ巡りを
していたのだと言う。
お坊さんが言われた○○寺も
心スポマニアの間では有名な所。
戦時中多くの人が戦火を逃れ
集まった場所だが飢えに苦しみ、
餓死した場所だと言われていた。
お坊さんの話は続く。
『其方其処で食べ物を粗末に
扱いはされなかったかな?』と。
そう言われて彼はハッ!と
気づいた。
心スポ巡りの前の腹ごしらえと
弁当を買ってきたが生憎お腹の
調子が悪く弁当を残したまま、
その場に捨てていったという。
『成る程、其で合点がいった、
其方、退院したら即その寺へ
行き、食べ物を粗末にした
非礼を詫びて食べ物を供えるが良い
さすれば体調不良もなくなるだろう』と。
彼は心底驚いたが退院後
即座に廃寺に赴き己の非礼を
心から侘び食物をお供えした。
すると其から間もなくして
体調はみるみるうちに回復、
新たな主演舞台の話も来て、
彼は無事初主演舞台を踏んだ。
恐らく他の人には見えなかった
だろうが舞台から客席を見た彼は
其処に多くのボロボロの服を纏った
人達が彼を優しく見つめている姿に
気づいていた。
その舞台は戦時中
多くの犠牲を払いながらも
逞しく生きる男の生き様を
描いた舞台で愛する人の亡骸を
前に絶叫し号泣するシーンが
ラストシーンであった。
彼は"目に見えぬ観客"を前に
迫真の演技で会場を沸かした。
だが其は"目に見えぬ観客"への
彼の悔恨の思いの涙であった。
その舞台をきっかけに
彼は舞台俳優として成長し
今ではトップを独走している。
其はきっとあの日からずっと
あの廃寺へ通い続け詫びと
食物の供物を忘れずに続け、
亡くなられた多くの御霊の
支持を得たからだと彼はいう。
勿論真偽の程は明らかではないが、
彼の話も強ち外れとも言えないだろう。
皆様もくれぐれも
お気をつけ下さいませ。