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#09 日本の未来はどうなるか。 国家の衰亡について調べてみた

改革のカギとなる「マドルスルー」という生き方

中西は、大きな改革を前にしてリーダーと国民一人ひとりが抱くべき『精神の姿勢』がカギというが、では、この「精神の姿勢」とは何か。それが「マドルスルー(泥の中を手探りで進んでいく)」である。これは、イギリス人の国民性の一つの大きな特徴になっているという。

「マドルスルー」とは、成果に到達できるかできないかで良し悪しを判断するのではなく、成果に向かって、もがきながら進むプロセス自体を楽しむという考え方だ。たとえばシェークスピアには悲劇も喜劇もあるが、問題の核心は、結末ではなくプロセスである。中西は、この考え方を日本人も身につけるべきという。

「マドルスルー」という生き方は、高坂のいう「幸運に臨んでは慎み深く、他人の不運からは教訓を学んで、つねに最善を尽くすという態度」、次から次と厄介な問題が出てきても「だからと言って投げやりにならず、その都度目の前の問題に全力で立ち向かい、解決して行く」姿勢と共通する。

結果よりプロセスが大事という発想に立つと、先行き不透明で成功するか失敗するか分からなくても、状況に柔軟に対応しながら前進していくことを楽しめるようになる。「闇夜で霧も出て、視界がほとんどないときのほうがわくわくする。それは、又、国民性のどこかに冒険心が残っていることを示している」。

日本は、明治以降「欧米に追い付き、追い越す」ことを目標に富国強兵、殖産興業を推進し、戦後は「所得倍増」を目標に高度経済成長を実現した。いずれも、明確な目標に向かって一直線に突き進むスタイルだが、今の日本には、そのような経済拡大一辺倒のシンプルな目標は設定できないし、すべきでもない。むしろ、先が見えずどこに困難が待ち受けているか分からない泥沼をマドルスルーすること、いわば苦難の道、冒険の旅を楽しめるような強靭な「精神の姿勢」を日本人が身に着けることが求められてくる。

そこに政治的リーダーの役割が出てくる。

マドルスルーの政治的リーダーシップを実現するには

前の記事で述べたように、20世紀初頭のイギリスでは、政財界のリーダーが国民の意識と離れた観念論・抽象論で改革を論じたため、現状維持を願う大衆層がリーダー層に不信感を持ち、そうした国民大衆の気分に付け入り権力欲を満たそうとする野心的リーダーが登場して、それに結び付いたポピュリズムが横行した。

「マドルスルー」にならなかったのである。

では、この大衆の抵抗やポピュリズムを利用する野心家に打ち勝つ、「マドルスルー」の政治的リーダーシップはどのようにして成り立つのか。

「同じ考えを持つ人間集団が早くから改革の推進を計画しながら、それをすぐにはあからさまにしない。しかし、それぞれのリーダーが少しずつ『キーポジション』を握りつつ、目立たない形でひとつの改革集団を徐々につくり上げていき、世論形成に成功しいつの間にか政権の座を手にする、こんな形の改革戦略の始動」が一つの参考になると中西はいう。

サッチャー政権がそうだったし、アメリカではカーターからレーガン政権への交代期にもこのような戦略が実行されたと氏は分析する。政界内に同じ志を持つ改革集団が形成され、虎視眈々と準備していくしかない、ということだろう。

(次号に続く)

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