
日記hibi/ 2018/9/16(盛岡のhibi/)
2018年9月16日(日)
朝。起き出すとすぐ空、というのはとてもいいもので、たのしい気持ちになった。
盛岡ブックキャンプは朝ごはんを食べるまでがイベント、というようなことになっており、朝ごはんまで時間があったのでテントをしまったあとは公園で本を読んで過ごした。それでごはんを食べて、ごはんのあとはとりあえず夜に東京に帰るまで時間があるので盛岡市内を回ることにし、昨日「てくり」さんから買った盛岡カフェ案内的な雑誌を目にしながら行きたいカフェに目星をつけて、そのあといつものようにGoogleマップを開いて、「本屋」と「書店」で検索した。知らないまちに来たときは必ずそうするように、ひとまず俯瞰でまちの本屋事情をイメージして(八幡宮と老舗本屋ってことはこの辺が参道の商店街かなとか、駅前と旧商店街がだいたいこのくらいの距離感とか、商業施設は別にあるのかあるとして人の流れは、などそういうあれこれ)、そのあと可能なかぎり全部の本屋が回れるようにルートを組んだ。この時間がすでに楽しい。
それで、駅前のさわや書店フェザン店からスタートしようとしたところ、たまたま車を停めたところが光原社の近くであったので、まずはそちらに赴くことになった。光原社に向けて勢いよく歩いていたところ、「東山堂支店」という本屋が目につき、それは朝チェック済みの店であったので、そのまま流れるように入店した。細長い店内に中央雑誌、壁面単行本と文庫。奥にマンガと教科書系という老舗のテンプレートといえる店内で、きっと教科書販売のシーズンなど忙しいんだろうなというか、そのシーズンだけ忙しいんだろうなという大変失礼なことを思いながら、こういう店がある場所というのは、昔商店街が広がっていた場所でもあるので、その姿に思いを馳せたりなどしていた、ところ、「宮沢賢治が昔ツケでよく本を買っていた本屋です」というような案内が、店頭のところにしれっと小さく掲示してあった。賢治さんのプライベートはすべからく解析されている。
そういう寄り道のあと、光原社についた。宮沢賢治の本を出版したことでも有名で、いまは伝統工芸品を売るお店になっていて、という前情報で赴いたが、なんと店内に中庭があり、別館やら池など、どうにも雰囲気が良い場所であって、なんだかもうこれは品のいい観光地、という場所で昂ぶった。
そのテンションのまま、現在地的にさわや書店の本店に行くか、駅前までもどってフェザン店に行くか、ちょうど迷われる位置で、迷われた結果駅前を選択した。
フェザン。フェザンという響きばかりが有名で、とくにフェザンの意味をかんがえたことはなかったのだけれど、フェザンというのは店が入居する駅ビルのことであった。
「FES"AN」。「FEZAN」だとばかり思ってもいたので、二重の驚きであった。さわや書店FES"AN店。S"。
それと同じFES"ANのビルの上階にさわや書店の「ORIORI」店もあるので先にそちらに向かった。ORIORI。FES"ANとORIORI。そこは文具や雑貨、CDなどもそろえているお店で、しかしてここはかなりぐっと来るというか、少し奥まで入ると詩歌であったり、SFであったりがしっかり整っていて、良き良き、と嬉しくなった。こういう間口が広くて深いという佇まいはいつでもあこがれてしまう。少しお話を伺ったところ、ビルの1階のイベントスペースのライブイベントなども仕切っておられるようで、店内でオリジナルの謎解きイベントも企画したりしていて「もうイベント屋ですよ」ということだった。こういう売り場を作る人が本を売るためにイベント屋になるのは心意気というか、思いの必要なことなので、とにかく応援したい気持ちが高く、高く生まれた。CDコーナーにしれっと置かれている音楽本がとてもよく、CDのPOPが本屋っぽい文法だったので、その雰囲気がまた良すぎて笑ってしまった。
それでFES"AN店についに向かった。まずその立地、場所がやばいな、という感想で、駅ビル1階の改札から地続きの位置に本屋があって、いまどきこんな好立地の本屋でこんなにスペースがあるところはたいてい他のテナントにとって変わられているのであまり見ない。なので、こりゃあ確かに超絶仕掛け販売したいな! という思いで店に向かったところ、大量のPOPや案内文や、オリジナルブックカバーの洪水で、店に入るまでに10数分を要した。情報量の多さが異常であった。それで、中に入ってからもなぜかオリジナルのナンプレなどが店内の一角を占拠しており「?」の雰囲気が全く抜けきらないまま店を出た。本屋を一周したあとに謎がのこることはいいことだ。また来よう。
それで、駅から北上してまずはpono books&time さんに向かった。昨日のブックキャンプでお会いしていて、今日は店が休みということまで知っていたが、町並みというか、本屋とそこがある通りの雰囲気を味わっておきたかった。すぐ近くの文具屋さんのビルとロゴが素敵だったので入って、本当に店頭は寂れたというか、寂れた、というか、つまり……、寂れた店内だったのだけれども、カウンターのおじいさんがずっと電子書籍を読んだいたので和んだ。
それから、妙にカラオケ店が多い、ひたすらカラオケ店がある、と思える通りを歩いていくと、ジュンク堂書店とさわや書店本店に行きつき、そこが観察された。文庫の平台など観察して楽しんだ。楽しんだのだが、岩波ぃという感じで、それは二階での出来事で、こういう光景を見たのは一回や二回ではなくて、ある意味テンプレとしての、一生現役であり続ける岩波文庫や新書の姿があった。彼らはいつか誰かに買われるのであろうか。そうしてざわついた気持ちの中、さわやの二階にあるカフェというか、喫茶室でおじいさんが新聞を読んでいて和んだ。
それからキリン書房という古本屋を見て、気がついたら盛岡城跡、というか、ここむしろ城の敷地内じゃない? みたいな小さな飲み屋街の一角に「六月の鹿」があって、コーヒーを飲んだ。コーヒーを飲みながら若干寝たらたいへん、元気になった。この段階で結構歩いていた。そうして再出発がなされた。それで、その「六月の鹿」に入る前なのだけれど、近くに不動産屋があったので何気なくチラシを見ていたところ、このあたりの物件、12坪の2階建て(24坪)くらいの物件が5万とか6万くらいで借りられることが発覚、というか把握された。されていた。されていたので、そうして六月の鹿さんはたいへん、たいへんいいお店だったので、僕は、6万円で六月の鹿の並びに本屋作れるじゃないですか! という妄想に取り憑かれていた。いい。この場所はいい。六月の鹿(この文脈5回目の登場)のメニューで、今月のコーヒーみたいな項目で、「コスタリカ」とあり。その「コスタリカ」の説明で、
ここまで暑い夏になると珈琲も軽やかな酸味のあるものを求めてしまいます
ネルドリップで淹れると酸っぱい感じにはなりませんので
とあって、この、酸っぱい感じにはなりませんので、という文章がとても好きだった。今日イチの文章なのではないか、特に、語尾の「ので」というのがいい。これはいい、という気持ちをいだいたので。この場所はとてもいいなぁと思ったので。こういう店の近くで本屋ができるといいなぁと思ったので。ので。その後になにがくるのだろうか。余韻があるのがいい。
そこからぐっと進んで、東山堂本店に導かれた。アーケードのある商店街。こういう町並みがもれなく好きだ。東山堂は1階でオリジナルの新書フェアなどやっていた。二階もマンガ、教育書、児童書などの取り揃えで、こういう二階がある本屋ももれなく好きだ。たくさんは残らないかもしれないけれど、一つ大きな街には、一箇所くらいこういう落ち着く空間があってもいい。バッタの絵本があった。バッタとの思い出が盛岡にはある。
それから、バスセンターの跡地を見て、それはただの跡地だったのだけれど、僕は地方都市のバスセンター周辺、という場所をもれなくいい店のあるスポットとして認識していて、とはいえまぁ今回は跡地を見て、そこから「羅針盤」のある通りへ向かった。というのも、「どこか盛岡で珈琲飲みたいのですが」とお二人の方に聞いたところ、お二人ともが「羅針盤という店はもともと六分儀という古い喫茶室だったんだけど、店をたたむことになって、それで自家焙煎の珈琲とチョコレート店を東京でやっていて(あ、蔵前にあるとこですね、知ってますと僕は答える)そう、その方が盛岡出身でよく六分儀に通っていたということで店を引き継いでくださることになって、それで前が六分儀だったので、新しい店の名前は羅針盤なんです」と嬉しそうに話されており、それは地元の人々にとって、とても嬉しいニュースであったことが知れて、僕もとても嬉しくなっていたのだけれど、その羅針盤を通り過ぎた。そう、もう時間がぜんぜんなかったので全力で僕は通り過ぎて、BOOKNERDに向かった。BOOKNERDも今日は休みであったことは知っていたのだけれど、町並みを、と思い店まで向かい、そうすると同じように、というかその方々はおそらく知らずに、BOOKNERDまで来て臨時休業を知って残念そうに帰る、というグループ2組に出くわし、驚愕した。というか、今日は僕もHABの店を休んでおる、という現実に思いいたったのだった。申し訳ない、見知らぬ誰かがいるかどうかもわからないけれど、すまないな、ということだった。というのは良いように思っているだけで、実際のところは、失われた(かもしれない)売上のことを考えて絶望しているのだった。どこにいても店を開けていない以上は売上が失われていく、かもしれない、可能性に苛まれている。難儀なことだ。BOOKNERDは、大変見通しの良い店構えをしており、入口からでも全体を見渡すことができた。そして株式会社地域環境計画、のとこが気になった。こういうことがあるから、やっていなくても店の前まで行きたくなってしまう。
羅針盤をスルーしてまで行ってみたかったかった「クラムボン」はお休みで、とはいえ時間もないのでまぁ、と思い、他の人に教えてもらった「ひめくり」にむかい、雑貨とお菓子、ニックナックが買われた。ニックナックはたいへん美味しい。六花亭のバターサンドorニックナック、というくらいには美味しい。
更に歩き、「機屋」というカフェに行き、今度はやっていたのでコーヒーを飲んだところ、こんなにおいしいコーヒーはない、というくらい美味しく、単純に僕の好みにベストマッチ、というところで、とてもマッチし、感動した。機屋のエプロンにはなぜか「Ex Libris」という文字が刺繍されていることや、ケーキにラップをするときのふんわり具合に関するカウンター内の小話、そこで読んだ本の文章、そういったすべての事柄が、好ましく見えて、とても輝いた。そうして感動したのち、店をでて、ふと店の奥の住宅に目をやると「メゾン機屋」とあった。妙に住宅街にあるなと思っていたのだが、不動産物件もお持ちであった。
そこから福田パンまで歩いて、福田パンってよくわからないけれどパンであるなら、大丈夫、という謎の信頼に基づいた行動だったが、地元でもたいそう混み合う店だったようで、とても並んでいたので、パンもラーメンも本も、並んで競うくらいなら本当にそれでも欲しい人が手にしたらいいと思っていて、つまりそこまでするほどの気力も時間もなかったため、そのまま駅前に戻った。戻りながら福田パンのことをやっとしらべたところ、コッペパンのお店だった。
そこから、ごはんを食べて帰りましょ、ということで、たべて、また夕方になって人入りも多くなったFES"AN店を見て、駐車場まで歩いていく道すがらに「KANEIRI STANDARD STORE」というところを見つけた。メインは雑貨店とギャラリーという感じであったが、とてもよく本が陳列してあり吸い寄せられるように入った。こういう店はGoogleマップの書店検索では出てこないから困る。デザインや雑貨、一定のジャンルであればここでも十分楽しく本を選べそうなくらいの、しっかりした選書で信頼が持てた。で、「六月の鹿」が表紙の「てくり」が買われた。最後まで盛岡で本を買えてよかった。
そこからは車で、7時間くらい運転してもらって東京に帰ってきた。僕は座っているだけだった。おそらくかなり長い間、車内では中日ドラゴンズの話をしていた。今年は広島以外の五球団が負けすぎていて、そのせいでまだどのチームも三位以内、クライマックスシリーズへの出場権を持っていた。中日にとってそういうシーズンは久しぶりなことだった。希望がある、というのは何よりも喜ばしい。
明日からは日常に戻りたい、と思ったと、日常に戻ったあとにこの文章を書いている。いた。
#READING 「盛岡の喫茶店 おかわり《2014改訂版》」