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夫婦のすれちがい。


短い短いエッセイを書きました。日記のようなものです。


夫婦のすれちがい

毎朝、「元気で帰ってきてね」と言って夫を仕事へ送り出す。長い間ずっとこの言葉を同じようにかけ続けてきたわたしに、夫がある日「あれやめてほしい!ふつうに『いってらっしゃい』って言って欲しいんだけど」と注文をつけてきた。えええ、突然そんなことを言われましても。聞けば夫は以前からそう思っていたそうで、「だって、一日働いてへとへとなのに元気で帰ってくるなんて無理じゃん」と。衝撃を受けた。わたしは夫に事故などに巻き込まれず、今日もただ生きて帰って来て欲しい、それだけでいいと願ってこの言葉をかけ続けてきたのに、夫はそれを「一日働いたあとも元気いっぱいで家に帰らねばならない」と受け取っていたのだ。わたしの思う「元気」は「無事」であり、夫の想像する「元気」は、なかやまきんに君のような状態だったのである。わたしたちは長い間、小さくすれ違い続けていたということになる。日本語ってむずかしいなぁと思って、でもたのしいなぁと思って笑った。


ひとり焼肉

肉を焼いて肉を食べなければやってられねぇ、と思う状況になったので、ひとりで焼肉屋に駆け込んだ。その昔深夜まで働いて帰り道に吉野家で牛丼をかっこむモーレツ会社員だった頃の名残で、わたしは牛丼屋もラーメン屋も定食屋も、まわりに女性客がいなかろうとひとりで入れるのだけれど、焼肉はたぶん初めてだった。入店すると何名かと聞かれるので「ひとりです」と答え、当店のシステムを知っているかと聞かれるので「知ってます」と答える。わたしは大変自意識過剰なので、「ひとりです」と言ったとき男性店員さんが少し驚いた目をしたように感じた。この店のシステムというのは、セットを頼むとご飯などがおかわり自由というものである。ひとりで食べ放題のシステムがある焼肉屋に来る女性は、よっぽど大食いであることを期待されているのではないか。広い店内をざっと見渡してもおひとり様はわたしだけ。期待されている。わたしは過剰な自意識に振り回され、ご飯を3杯もたいらげる大食い女性になりすまして店を出た。満足した。太った。


心ある仕事を

そろそろ年賀状の準備をしなきゃねえと話していたら、夫が「過去の年賀状はもう捨てようよ。キリがないから」と提案してきた。わたしはなんとなく人からいただいた年賀状は捨てられず、過去10年以上すべて保管していた。今も送り合っている友人からのものは最新のものだけを残し、年賀状の交換はやめた元会社の同僚にもらったものはもうぜんぶ捨てようと思いながら最後に一度読むことにした。おもしろい。同僚たちは基本的にクリエイティブ職と呼ばれるような職種の人たちということもあってか、年賀状がとても凝っている。捨てたくないなあ。その中に、尊敬していた上司から、社会人一年目のときにもらった一枚があった。美しい手書きの文字で、「心ある仕事をしていきましょう」と添えられていた。箱の中に大切に戻した。心あるものを、わたしは書きたい。

おわり

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望月
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