017話 新展開
この様な『残虐非道な悪に成り得る可能性が、裕司には有る!?』と気付いて自分の事を恐ろしく思った。
それと同時に、こんな事を考えた。
・・・如何なる犯罪も事件が起こるまで、捕まる事はない。例外として、予告殺人等の場合は警戒態勢を取ったり、その予告を出した事だけでも罰するみたいだが、僕の場合はど〜なのかっ?
・・・行き当たりばったりで、出会った幼女を誘導し、軟禁、強姦し、終いには生きたまんまの切断……。「したぃ」と言う願望が強く有るだけで実行に移してはいなぃ。けど、このままの気持ちを放って置くと、本当に実行しかねなぃと自分で理解している。かと言って、この精神状態の事を警察に自ら訴えたところで、自首にも成らぬっ。
・・・ど〜せ、ただの妄想って事で片付けられ、刑務所に入れてもらえる訳も無く、精神病院を紹介されるくらいだろぉ。
・・・僕は既に入院患者だっ。
しかし、この症状については医師への相談は未だ勇気が無く。だからか、外泊も余裕で許され、シャバの空気も味わえて、今回の様な戸惑いが生じた訳だ。
ということは
・・・今がチャ〜ンス!
そう思う一方で
・・・今は施設の仲間達と行動を共にしている時だから、迷惑を掛けたくなぃ。
そう自制しようと葛藤している自分も僅かにいる。その正義感と言うか、当たり前の感情を育てていく事も、今の裕司には重要な課題なのだ! と自分の異常な欲求を鎮めた外泊だった。
_____________________」
朝4時に目覚め、ゆっくりと脳味噌を起こす。
6時、インスタントコーヒーに砂糖多めをマイカップに入れて、ナースステーションへお湯を貰いに行く。
そして、温かい手作り珈琲を啜りながら、煙草と言う一番に治し難いと聞く依存物質を躰全身に染み渡るよう吸い込む。
6時半、ラジオから流れる音を聴きながら、カヨコさんと他2名の患者と一緒に、ラジオ体操の第一・第二で身体を動かす。
7時半、朝食にお粥と味噌汁とお数を摂取。
9時、4人部屋の病室を他の患者のスペースまで、独りで掃き、独りでモップを掛ける。
9時半、時間開放により敷地内散歩と言うより偵察に近い感じで周回する。
今の裕司を駆り立てているのは『女』というのは紛れも無い事実だ。
女との接触を抑えられている施設での生活と、やり過ぎはNGだが、多少の接触は黙認される病院での生活、この2つを計りに掛けるものなら、圧倒的に病院での生活を選んでしまうのは
・・・僕が異常なのかぁ?
そもそも、裕司が施設で暮らし始めたのは理由は「依存症の病を何とかしたぃ」という思いからだった。
けれどそれは「ココの施設でなくては回復が出来なぃ!」という事ではないと、やっと気付く。
無理矢理な気持ちで退院しなくても、病院に居続けて依存症を何とかする事も出来るのだ。
_____________________」
あのサオリが、なぜか再入院して居た。
いつもの小山の天辺で独りポケ〜っとしていたら、急にサオリが登って来た。
「あははっ、また入院しちゃったー」
・・・なんでっ?
「…あのさっ、…裕司のケータイ番号、教えてくれる?」
正直、嫌だった。
裕司自身は携帯電話を持っていない為、どうしてもと言うなら施設のハウス用携帯の番号になるのだけど、そうなると裕司が電話に出る前に、まずハウス番長が携帯電話の管理もしている為、電話に出る事になる。
・・・「依存症のサオリです。ハーシさん居ますか?」そう話し始めれば、そこまで怪しまれずに裕司に電話を替わってくれるだろ〜という計算は出来るが、そんな風に連絡を取り合える状態を…正直、望んでいなぃ。
2人で一緒の部屋で生活する事は、悪く思わないけど、まだ一緒になれていない間に、電話のみの繋がりを持つ事に、違和感を覚える。
なので、電話番号を語呂合わせの平仮名で表したメモ紙を渡す時も、更に念押しで
「サオリが掛けたいと思う時は、裕司も掛けたい時。それなのに、裕司から掛けて来ないって事は話せない状況なのか我慢してる状況だから、サオリも我慢してねっ? 電話で話せる時期が来たら裕司から連絡するから、それまで寂しいだろ〜けど最初で最後の試練だと思って、耐えてねっ?」
サオリの表情は悲しさで、みるみるうちに沈んでいく。
「サオリの方が耐え切れなくなって、先に電話をしてしまったら、僕の施設での立場が可笑しくなったりで大変な事になるから、番号の書かれたこの紙を渡すけど、掛けずに御守りとして取って置いてねっ?」
これだけ言えば掛けて来ないだろうと、計画的に事を進めた。
・・・実際、サオリは電話を掛ける事は不可能だけどねっ。……だって、嘘の番号をしかも語呂合わせで記したんだもん。
そこまでしてでも、サオリからのコールを避けたいと考えての行動だった。
サオリの柔らかい胸を直で揉んだり、パンティの上からアソコを刺激したりして、この日の密会は幕を閉じた。
・・・なぜだろぉ? 前みたいに興奮していない自分が居るっ。自分でも気付いていない悩みでも有るのだろぉか? もしかして、サオリに対して『飽き』だしているのかぁ? だとすれば、ど〜すれば良いのだろぉ?
・・・このままの感情が同じように続く訳なぃ。どんどん飽きが侵蝕して来るだろぉ。そんな状態のまま、サオリと対峙していて気付かれない筈がなぃ。ならばそ〜なる前に、自分から別れを告げるべきでは…? それがサオリの悲しみを最小限に出来る最善の策なのかぁ?
・・・分からなぃ。
・・・僕は、数々の恋愛をしてきたつもりだが、1度もちゃんとした別れ方をして来なかった。二股発覚だったり、自然消滅だったり……。
・・・今回のサオリとの恋愛が、今迄の自分を変える良いキッカケになるかもしれなぃ。『重複恋愛依存症?』に打ち勝つ方法が見つかるかもしれなぃ。『別れ』と言う行為が。
・・・そぅと思いつつも、踏み出す心になれないのは『悲しませたくなぃ』という僕の偽善心が有るからだっ。
・・・そもそも、サオリを悲しませる行為を、既にしてきているじゃないかっ! 浮気の定義が分からないという言い訳を翳し、サオリ以外に自分の心がトキメク人を4人以上も作っているしっ。
・・・Hをしてないから浮気じゃなぃ。接吻をしてないから浮気じゃなぃ。抱き合ってないから浮気じゃなぃ。手を繋いでないから浮気じゃなぃ。
5月15日 午後7時20分頃
母親と娘、2人してボブカットの親子が、3北病棟に現れた。
・・・ど〜せ、誰かの面会だろぉ?
裕司がホールのテーブルで頬杖を付きながら、ぼんやり眺めて居ると、その2人は看護師と一緒にナースステーションへ入って行った。
数分後、その3人で面会室へ入って行った。
5分経過、……裕司は居ても立っても居られず状況を把握したくて、傍に居た情報通のワタル君に声を掛けた。
患者暦の長いワタル君は、看護師は勿論、患者の名前全員分を記憶しているくらいに賢いので、裕司は知らない事をいつも彼に訊いていた。
「今、面会室に入った親子、娘が患者かなぁ?」
「んー、どーだろ? 患者の様には見えなかった」
「そ〜だけど、誰かの面会なら患者も中に入るでしょ? ……あの子が患者であって欲しぃなぁ」
一服の時間になり、裕司はスモーキングルームへ入って行く。
喫煙の最中も、新しい女性患者の事で頭も心も支配されていた。
いつもより、早く煙草が短くなって、早速その場に居続けたワタル君に状況を尋ねると
「保護室から女の人、出て来て戻ってった。……茶色い人」
「え? 早くね? 来て戻った…。吸わずに居れば良かったぁ〜」
そこで疑問に思った事を、ワタル君に訊く。
「…茶色い人ってぇ、肌の色? 色黒って事?」
「……服が、…服が茶色かった」
「な〜んだ、てっきり色黒だと思っちゃったょ」
・・・そうなら、大減点だったょ。僕は色白の女性が大前提なんだょ。
結局、親子2人して3北病棟を後にした。
残されたのは、保護室に居るらしい女性患者の情報だけ……。
ワタル君、曰く
「髪が長くて、眼鏡は掛けて無くて、ちょっと太ってる」
・・・問題無いと、その異性に会える日を待ち遠しく思う。
翌日、生憎の雨
この地は早くも梅雨入りだと、清掃業者のサダオさんが教えてくれた。
「今だぁ!」と看護師の虚を突いて、保護室へ通じるドアを擦り抜ける。
・・・だって、無防備に開けっ放しなんだもん。
そして確認! チラ見だったが彼女の姿は脳裏に焼き付いた。
ドアに貼り付いてるネームプレートには、氏名が記されている。
・・・リサ。……サオリが初対面の時に使ってた偽名と一緒だ!
そして、数時間後。
リサはスモーキングルームにすぐ、姿を現す。
裕司は、品定めをする……。
率直に答えるとXだ。
裕司は女性に対して、ジャッジがかなり甘いと自覚しているのに、この患者の事は
・・・痩せ過ぎなのが……、更に胸の膨らんでほしい所も……。
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