ライトノベルの賞に応募する(30)
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夕食の時間ギリギリまで僕はサッカーに集中した。夕食だと呼ばれると、後ろ髪をひかれる思いで、あと片付けをした。しょうがない。ルールは守らなければいけない。使っていたバトンなどの用具を拾って倉庫に向かう。
倉庫の中で、ハジメたち4人に囲まれた。僕が来るのを待ち伏せしていたのだ。
「お前、なんなんだよ。偉そうに。」
ハジメが口火を切る。
「サッカーが少しうまいくらいで調子に乗りやがって。」
僕は胸ぐらをハジメに掴まれた。殴られると思った。
「俺たちとは遊べない、遊ぶことに意味なんてない、そう言いたいのか。馬鹿にしやがって!」
他の三人も口々に
「馬鹿!」
とか
「死ね!」
と言っている。
ハジメがこぶしを振り上げたその瞬間だった。
「コラ! お前たち何してるんだ!」
成田さんともう一人女の人が、倉庫の僕たちを見つけた。
ハジメは僕を掴んでいた手を瞬時に離し、
「何もしてないっすよ! ちょっと話してただけです。」
ハジメは成田さんたちにそういった。
「なー! シュウそうだよな?」
ハジメたち4人は僕に目配せをしている。どうするべきか。僕は迷った。言えばチクったなどと言われ、もっとひどいことになるかもしれない。少しの沈黙が場を支配する。
「僕、ハジメに胸ぐらを掴まれました。」
僕は顔を上げて成田さんたちに言うことにした。別に仲が悪くなってもどうでもいい。僕はすぐに家に帰るんだし、バカとか死ねとか普通に使うこいつらに合わせる義理なんてない。こいつらに同調する必要なんてない。
「本当か?!」
「はい。倉庫で待ち伏せされて。」
もう言ってしまったのだ、隠す必要なんかもうない。
「お前たち! 何やってるんだ。」
そう言うと、成田さんを置いて、女性スタッフが外に駆けだした。人を呼びに行ったのだろう。
「っち。」
ハジメが大きく舌打ちした。
「こいつが悪いんですよ。俺たちを馬鹿にするから。」
「馬鹿になんかしてません。」
僕も反論する、もう言ってしまったのだ、隠す必要なんかない。
「僕は、一人でサッカーの練習したかっただけです。」
僕ははっきりとそう言った。
成田さんが僕とハジメの間に体を入れた。
「シュウ。殴られたり、暴力は振るわれてないんだな?」
成田さんが念を押すように言った。
「はい、それはありません。でも殴られそうになりました。」
「ハジメ、それは本当か?」
「ちょっと話そうとしただけですよ。そんなことするわけないじゃないですか。」
ハジメはさっきの剣幕とは違って、人のよさそうに成田さんに身振り手振りをして説明している。
大人が3人増えた。狭い倉庫では収まりきらず、僕を残し4人を外に出した。
成田さんがしゃがんで僕に目線を合わせていう。
「シュウ、どういう経緯でこうなったのか説明してくれるか?」
「…、昨日サッカーに誘われて少し一緒にやったけど…、全然へたくそで面白くなかったから、今日は一人ですることにして、それを言いました。」
「それで、シュウは今日一人でサッカーしてたのか?」
「一人で集中した方が練習になるし、僕、サッカー上手くなりたくて、サッカーやってるので…。」
「昨日は一緒にサッカーしてたのに、今日は一人でやってるから気になってはいたんだよ。」
「僕は真剣にサッカーやってるので、遊びでやってる人たちとはちがうんです。」
僕は言い出したら止まらなくなった。
「セレクションだってあるし、遊んでる暇なんてないんですよ。ここにいる間に練習できなくて、サッカー下手になってセレクションに落ちたら…。」
成田さんは真剣な表情で僕の目を見ている。
「セレクション通りたいんです。セレクションに通ればプロになることだって夢じゃない。僕ほんとにセレクションに通りたいんです。」
「…。ここでみんなで仲良くサッカーすることはできないか?」
「できないわけじゃないけど、僕には時間がないんです。無理をして合わせようと思えばできるけど、そんなことしてる暇、今の僕にはないんです!」
泣くつもりなんてなかったのに、涙が出てきた。タカシとセレクションに選ばれて、嬉しくて、通るように一緒に頑張ろうって約束したのに、こんなところに来ることになって、セレクションに行けるのかもわからないし、なんで僕ばっかりこんな目に合わなきゃいけないんだ。そう思うと涙が止まらなかった。
成田さんは立ち上がって、僕を強く抱きしめてくれた。僕はそのまましばらく泣き続けた。
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