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ライトノベルの賞に応募する(26)

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 食堂に入ると配膳はもう済んでいた。僕は昨日と同じ席に着く。パラパラと人が増え、いただきますの号令と一緒に食べ始める。いつものように早々に食事を終え、手持無沙汰にしていた。話しかけられてもあんまり具体的なことは言わなかった。食べながらおしゃべりをする口元を見るのが嫌なのだ。とりあえず口の中のもの飲み込んでから話してくれ。そう思ってしまう。
 朝食の下膳が終ると、朝の会が始まった。学校とさほど違いはなかった。一日の予定の確認と、事務連絡事項の共有。今日は土曜日なので、学習時間の強制はなく、一日自由に過ごしていいとのことだった。昨日の大富豪のメンバーとサッカーをする約束をしているし、一日ボールで遊べる。僕はそう思って、昨日の大富豪のメンバーと外に出た。
 ゲームをできるほどの広さはなく、僕たちだけじゃなくほかにも庭を使ってる人も居る。ただ5人でボール回しするだけなのに正直30分もすれば飽きてしまった。初めてボールを触ったより、もちろんましだけど、別に全員技量があるわけでもない。ボールはすぐあさっての方向に行ってしまうし、拾いに行って戻っての時間の方が長いんじゃないか。折角ボールに触れるのにがっかりしてしまった。タカシが言っていた、うまい人とプレーすることが大事だって話、今なら分かる気がした。これなら一人で壁あてとかリフティングをしていた方がずっとましだ。そんなことまで思ってしまった。
「ねぇ、せめて鳥かごやらない?」
 僕は我慢ができず、口に出してしまった。
「鳥かごって何?」
 っえ? サッカーやってるのに鳥かごも知らないの?
 僕は驚いてしまった。
「全員でボール回すんじゃなくて、鬼を作って、邪魔するディフェンダーの役割をする人を作って、ボール回しするんだよ。」
「ふーん。じゃあお前最初に鬼やれよ。」
 ハジメにそういわれたので、僕は四人の中央に移動した。2つ目のパスで僕は簡単にボールを奪ってしまう。このレベルだと、鳥かごさえできない。そう思った。僕は奪ったボールで、何度かリフティングをした。つまらなかった。
「鬼がボール奪ったらどうするんだよ。」
 ハジメに言われる。
「カットされた人が交代して鬼になるんだ。」
 僕はリフティングをやめて、そう答えた。
「悪いけど、僕、抜けるわ。」
 完全にやる気を失ってしまった僕は、その輪の中から抜けることにした。
 庭は一つしかない。その場で一人で壁打ちやリフティングをしても空気が悪くなるだけだ。僕は一旦室内に戻ることにした。
 一人、靴を脱ぎ、室内に戻る。部屋に戻っても何もやることがない。勉強道具もないし、サッカーができないとなると、一日をどう過ごしていいか、わからなかった。とりあえず食堂に行ってみることにした。
 扉を開けると、小さい子が何人か集まっていて、ギターを弾く男性が中心にいた。ギターを弾いている人を生で見るのは初めてだった。僕はその輪の少し外側から、その様子を見ていた。
 やっていたのは、米津のパプリカだった。ギターの演奏に合わせてみんなが楽しそうに歌っている。微笑ましい光景だった。
「じゃあ、もうすぐおやつだから終わりにしようか。」
 そういうと男性職員は、解散を促した。
「っあっあの!」
 僕は思わず話しかけてしまった。
「何?」
 男性は僕を見る。
「はっハイスタンダードって知ってますか?」
「!!!!っえ!!! 君ハイスタ知ってるの?」
 男性はすごく驚いて、僕を見ている。
「まじか! ここでハイスタって聞くのは初めてだよ。」
「…。」
 僕は何と返事をしていいかわからなかった。
「ハイスタ好きなの?」
「…1曲だけなんですけど…。すごく好きです。」
「っえ? 何? ステイゴールド? 初めてのちゅう?」
「…ステイゴールドです。」
 ステイゴールドをこの人は知っているんだ。
「えー! うれしいなあ。ハイスタ好きな子がいるんだ~。」
 男性はすごくうれしそうに笑っていた。
「知ってるんですか?」
「当たり前だよ。俺ら世代で楽器やってる奴は、ステイゴールド必修科目だよ。」
 男性は笑いながら言った。
「ちょっとアコギでやるの変だけど…。」
 そう言って、ステイゴールドの短い前奏を弾いてくれた。なじみの音源とは違うけれど、確かにステイゴールドの前奏だった。
「っぼっ僕も弾けるようになりたいです!」
 僕は思わず口走ってしまった。
「っえ? ほんと? ギター覚えたいの?! うれしいなぁ。」
 男性は本当にうれしそうに言った。
「いいよ教えるよ。ハイスタやるならアコギよりエレキがいいよなぁ。コア系はパワーコードって言って、すごく簡単な抑え方でできるから、すぐ覚えるよ。」
「…そうなんですか?」
「うん。すぐだよ。君は確か…シュウ君だっけ?」
「はい。大森シュウです。」
「僕は湯川。よろしくね。」
「はい。よろしくお願いします。」
 ここに来て、僕は初めて人と積極的に交流したいと思っていた。
「ちょっとギター触ってみる?」
「いいんですか?」
「もちろんいいよ。」
 そう言って湯川さんは立ち上がり、僕に丸椅子をすすめてくれた。僕は椅子に座って、ギターを始めて持った。重くはないけど、結構大きかった。
「違う、逆、逆。」
 湯川さんは笑いながらそういうと、ギターの構え方を教えてくれた。
「そうそう、左手でネックを抑えて、右手で弦を弾くんだ。」
 そう言って僕に薄い三角のプラスチックを片を渡してくれた。
「これはピック。これで弦を弾くと、手でやるよりもきれいに音が出るんだ。」
 左手は支えるので精いっぱい。右手を動かしてみたけど、うまく音は出なかった。
「うまくできないです…。」
 僕は正直にそういった。
「最初はだれでもそうだよ。大丈夫大丈夫。すぐに慣れるから。」
 僕は何度か右手を上下に動かしてみる。
「そうそう。下におろす時に音を出すようにしてごらん。そんなに深くじゃなく、ひっかくみたいに浅くでいいから。」
 僕は湯川さんに言われたことを頭の中で繰り返して、腕を降ろす時に弦に触れるように意識してみた。
「いいね。いいね。そうそう。そういう感じ。」
 湯川さんは心の底から嬉しそうに言った。ここでは優しく笑顔のオトナはいっぱいいるけど、みんな目の奥が笑ってなかった。でも湯川さんは、本当に楽しそうに笑ってくれている。信用できるかもしれない。僕はなんとなくそう思った。
「俺、明日、夕方から夜勤なんだけどさ、うちで遊んでるエレキ持って来てやるよ。アンプはさすがにここじゃ音だせないけど、ギターあるだけで違うだろ?」
 湯川さんは本当にうれしそうに続けた。
「えっいいんですか?」
「本当はだめかもしれないけど、いいよ。使ってないの何本もあるから。」
「ありがとうございます!」
「ここにいる間に、君はステイゴールドを弾けるようになろう。」
「はい!」
 湯川さんはそう言うと、僕からギターを受け取った。

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