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ライトノベルの賞に応募する(13)

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「お前、セレクション初めてだっけ?」
タカシが駐輪場で、帰り際に声を掛けてくる。
「…あっああ。ここに入るときに受けて以来だな…。」
「まぁ、そんな気追うことないよ。」
タカシは冬の県選抜のセレクションも受けて、しっかり通っている。
「俺は、今回、お前とで嬉しいよ。今日のゴールだって、俺がしたというより、お前にさせられたって感じだったもんな。」
「…。そうか? タカシが走ったから…。」
「フォワードだったら、誰だって走るよ。でも欲しいところに必ず配球がもらえるわけじゃない。お前が起点になったんだよ。」
「…。」
「まぁウソップは嫌だけどな。」
「ふふふっ。」
「お前まで笑うなよ!」
「ごめん! ごめん!」
「でもさ、俺思うんだ。うまくなるのに、うまい人と一緒にプレーできる環境が大事なんじゃないかて…。」
「っえ?」
「ほら、俺、県選抜通ったじゃん? その練習に行く度思うんだよ。俺よりうまい奴がこんなにいるのか?! って…。同じ学年で、俺よりうまい奴がいるんだよ。本当に。」
「すごい自信だな…。」
「…。いやさ、学校とかで放課後やってるのなんかさ、遊びじゃん? 別に本気でやってる奴なんかそんなにいないし、熱くなって怒ってるのなんか俺位じゃん。熱くなって怒ってる俺が馬鹿みたいというか…。馬鹿にされてるんじゃないかとか…。正直もどかしいんだよ。」
「えっ?」
タカシは腹の中で、そんなことを考えてたのか…。
「実際このスクールのセレクション通ったのだって、俺とお前だけだろ? シュウだってさ、現実さ、学校で遊んでるより、ここでやった方が楽しいだろ?」
「まぁ…。確かに…。」
確かに僕は、週に2回ここに通えることを生きがいにしている。
「俺さ、兄貴が居るんだよ。3つ上の。」
「…ああ。知ってる…。」
「小さいころから兄貴と兄貴の友達とサッカーしてたから、正直、同じ学年の奴がうまく見えないんだ。…さっきコーチが言ってた、いろんなキャラクターがチームに必要だって話、分かんないわけじゃないんだよ。でもさ、学校の連中なんてのは、レベルが低くて…。キャラクターどうのこうのって話の前に、同じ土俵に居ない気がするんだよ。見てる世界が違うというか…。目指してる先が違うというか…。どうせ、家で一人でできる練習も、してないだろ?」
「…確かにそうかもしれない。俺だって最近はほとんどできてねーよ。」
ミワが幼稚園に行くようになってから、僕も壁打ちとかリフティングとか、ほとんどできなくなった。僕だってみんなでする練習以外にボールに触りたい。練習したい。でもできない。
「でもお前はさ、基本的なことがもうできてるし…。コーチが言ってたコツを掴むのがうまいって話し、俺もそうだと思うんだよ。なんか、お前は集中力があるっていうか、飲み込みが早いっていうか、効率的なんだよな。全てが。」
並んで自転車を転がしながら、タカシは続ける。
「お前学校のテストとかでもちゃんとしてるじゃん? 漢字テスト毎回満点って、いったいぜんたいどんな頭してるんだよ。」
「それは、追加の宿題が嫌なだけで…。」
「そんなん誰だってそうだよ。一回で終わらせたいってみんな思ってる。でもできない。そんなうまくはいかない。完璧だと思ってもどこかでとちる。お前はさ、ミスらない。サッカーでも、漢字テストでも、お前ならミスらないって信じられるんだよ…。」
「あっありがとう…。」
タカシに、こんなにストレートに褒められるなんて、驚いてしまう。
「お前プロ目指すの?」
「……。タカシは?」
「俺? 行けるならもちろん行きたいよ。Jリーグだって海外だって、行ってサッカーしたい。好きなんだよ、サッカーが。こんなに夢中になれること、他にないんだ。お前だってそうだろ?」
「…うん。」
「今度のセレクションはさ、Jリーグにつながるぜ? わかってると思うけど、プロチームの下部組織なんだ。そこで認められれば、そのままJリーグチームの内定だって夢じゃない。プロの選手の練習とか実際のプレーとか、生で見れるチャンスも増えるし、考え方も鍛えられる。もしかしたら、一緒にサッカーすることだって当たり前になるかもしれない。通える範囲のプロチームのスカウトが集結するんだ。セレクション通りたいよな…。」
「…。」
「お前が一緒だったら、今日みたいなパスいっぱい俺に回せるじゃん? 普段から一緒にやってる分、俺の考えてることわかるだろ?」
「…確かに。」
「そしたら今日みたいに、俺がゴール決めるから、俺にいいところでいっぱいパス回せよ?!」
「っうん。」
「そしたら俺もお前もセレクション通るよ!」
「…うん。」
「お前だってなるんだろ? プロに?」
「………。」
「なるだろ?」
タカシがキラキラした目で僕を見つめている。僕は思わず視線を外して下を向いてしまった。タカシには夢がある。それを現実的に考えていて、考えても許される環境にあることが羨ましかった。今は平日週に2回と、試合のある土日の数日だけサッカーできる。でもそれが増えたらどうだ? ミワの面倒は? 遠いチームのセレクションに通ったら? どうやって練習に通う? 今のクラブは自転車で通えるから自分で来れるけど、車じゃないと通えないところだったら? 母親が送迎? 無理だ。
「………。」
「お前、プロ目指してないのかよ?!」
「………。」
「仲間だろ?!」
タカシは足を止めて、右手で僕の肩を強く掴んだ。僕も足を止めてタカシを見た。
「俺だってできるものならなりたいさ! ……でも…。」
「でも?」
言い淀んだ僕に、タカシは納得していない。タカシは許してくれない。
「………。」
言葉が続かない。視線をもう一度下に移す。
「でも、なんだよ!」
「………。」
「言えよ!」
何を言っても言い訳になる気がする。
「言えってば!」
タカシは許してくれない。僕は意を決してタカシに目線を合わせる。
「…と…遠かったら、通えないかもしれない…。」
僕が発せられるのはそれだけだった。
「なんだ、そんなことかよ。」
タカシは、肩から手を放して、再び歩き出した。
全部をぶちまけられたら、どんなに楽だろう。タカシの背中を見ながら思った。タカシが羨ましかった。自分のことだけ考えられるタカシが羨ましかった。やっと横に並んだと思ったタカシが、先に行く気がした。この先の未来も…。
「そんなの俺と同じチームに受かったら、俺のかーちゃんに、タカシも乗せてってくれるように頼んでやるよ。」
いつまでも歩き出さない僕にタカシが振り返る。
「だから、セレクション、一緒にがんばろうな!」
「………うん。」
僕は絞り出して何とかそういうと、足を進めた。

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