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ライトノベルの賞に応募する(22)

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 お昼は、カレーとサラダとフルーツポンチだった。すでに机に配膳が済んでいて、僕は何もすることがなかった。指定されたのは、ミワとかなり離れた席だった。僕の背中側にミワが居て、食事中ミワの様子を伺い知ることはできなかった。なぜミワから離されるのかわからなかったし、心配だったけれど、ミワは食事は自分でもできる。給食のような雰囲気で、おかわりをしていいとのことだったので、僕は少しおかわりをさせてもらった。最初に配膳された量では、僕には足らなかった。僕と同じ席に着いたのは、僕と同じくらいの男子3人で、3人で喋りながら食べていたけど、僕は給食の時と同じく、しゃべりながら食べる口元を見るのが嫌だったから、早々に食べ終わった。できるだけにこやかに。敵意は示さない。でも、話しかけられても、うんとか、ああとか、返事をしたのはその程度だ。別にここに長くいるわけでもない。仲良くなる必要はない。
 食事が終わったあと、皆がお盆を持って列になって片付け始めたので、僕もそれに習って、自分の使ったお盆を持って列に並んだ。
 お昼の時には、高瀬さんも荒井さんもいなくなっていて、オトナはみんな違う人になっていた。男の人も居た。
 昼食の後、一人の男の人に呼ばれた。
「シュウくんだね。」
「はい。」
「ここでの、生活のルールを伝えたいからちょっと来てくれる?」
 僕はその人のあとにつづくと、小部屋のような部屋に通された。机が一つと椅子が四つ。奥の席に座るように言われた。
「初めまして、成田です。昨日はよく寝られた?」
「…はい。」
「お昼はどうだった? おいしかった?」
「…はい。」
「すぐに、全部覚えて欲しいというわけではないんだけど、ここでの生活のルールについて、いくつか覚えておいて欲しいんだ。」
「…はい。」
 ルールの説明と聞いて、僕は集中しなければと思った。サッカーでもルールを理解することが何よりも大切だから。ルールに則ったうえで、勝つ方法を考える。
「まずね、時間の事。起床時間には放送で音楽がかかる。それを聞いたら、起きて、服を着替えて、歯磨きをしたり顔を洗ったり身支度が済んだら、食堂に来て欲しい。朝食を食べて、朝の会をするから。」
「…はい。」
 起床時間は放送。身支度をして食堂に来る。ルール1。
「それから学習の時間、お昼、掃除の時間、運動の時間、自由にしていい時間、と進んで夕食の後、お風呂、歯磨き、シュウ君は5年生だから、9時半には寝て欲しい。」
9時半に寝る? そんなに早く?
「早くないですか? 寝るの…。」
「シュウ君はいつも何時に寝ているの?」
「大体12時くらいです。」
「そうか。じゃあ早く感じるかもしれない。最初は寝れないかもしれないけど、消灯と言って、電気を消して、みんなが寝る時間だから、寝れなくても静かに過ごして欲しい。」
「…はい。」
寝れなくても、電気を消して、静かに過ごす…。ルール2
「大体そういう感じで、一日のスケジュールが決まってる。学校のルールとそんなに変わらないし、そこに生活のことが入ってくる程度だから、多分すぐ慣れるよ。」
「…はい。」
「シュウくんは、ここがどんなところかわかってる?」
「…児童相談所の…。」
「そう、児童相談所の一時保護施設っていって、親御さんとか、保護者のところで生活に困っている18歳以下の子供が集まってるんだ。」
セイカツ ニ コマッテル?
「僕、別に生活に困ってないですけど…。」
「うん。シュウ君の昨日話してくれた話は、僕も聞いたよ。シュウ君自身は、生活に困ってるという認識はない。でも、昨晩のお父さんのこともあるし、折角ここに来たんだ、一度ゆっくりそのことについても一緒に考えていこう。」
「…。」
 何を考えるっていうんだ…。僕はそう思ったけど、口には出さなかった。ルールをまず把握しないと、戦い方がわからない。
「ここにいるみんなの事情はそれぞれでね、親御さんがご出産とかご病気とかで入院とか、どうしても面倒を見ることができないから、その期間だけ来ているという子もいるし、保護者の方にすごく暴力を受けてここに来たという子もいるし、兎に角、理由は様々なんだ。」
「…はい。」
「シュウ君が想像できないような体験をしてきた子もいる。僕だって想像できないような厳しい経験をしてきている子もたくさんいる。」
「…はい。」
「だからね、ここでは自宅の住所とか、親御さんの話とか、どうしてここに来たのか? ということを子供同士で話すことはやめて欲しい。オトナの職員に対してだったらもちろん大歓迎だよ。話したくなったらいつでも話しかけてもらっていい。でも子供同士ではダメ。わかるかな?」
「…はい。」
 子ども同士で、親の話をしてはいけない…。ルール3。
「君が、妹さんのミワちゃんをすごく大事にしているという話は聞いている。自宅ではほとんどの面倒をシュウ君が見てるって聞いたけど、本当かな?」
「…はい。」
「具体的にはどういう風にしてるの?」
「…朝、朝食を準備して、お弁当を作って、起こして、着替えさせて…、園バスの停留所まで連れて行って、5時に迎えに行きます。」
「うん。」
「夕飯を作って、食べさせて、お風呂に一緒に入って、絵本を読んで…、寝かしつけます。」
「ご飯の準備は、シュウ君とミワちゃんの分だけ?」
「いえ、家族全員の分です。」
「そうか。ミワちゃんのこと以外で、ご家族にシュウ君がしてることはあるかな?」
「掃除、洗濯、ごみ捨て…、買い出しくらいかな?」
「うん。じゃあ、おうちの中のことはほとんど全部シュウ君がやっていたんだね?」
「…ええ…。まぁ…。母の帰りが遅いので…。」
「ここではね? シュウ君がシュウ君のために時間を使って欲しい。」
「…。」
「僕たちは、君やミワちゃんの基本的な生活を担保する。具体的には、朝決まった時間に起きて、3食きちんと食べて、お風呂に入って、清潔な衣類を着て、決まった時間に寝る。」
「…。」
「その生活に関する必要な手伝いをする。掃除は当番で、みんなでするけど、ご飯の準備とか片付けとか洗濯とか、そういうことを僕たちに任せて欲しい。」
「…。」
「わかるかい? ミワちゃんの面倒も、シュウ君が見る必要はない。」
「っえ?」
みわ ノ メンドウ ヲ ミル ヒツヨウ ガ ナイ?
「ミワの面倒を見ちゃいけないってことですか?」
「いけないって事じゃない。君がこれまでしてきたことを否定するんじゃない。むしろすごく偉いと思ってる。でも、ここではね? ミワちゃんの事よりも、シュウ君自身は自分自身を大切に生活してもらいたいと思ってるんだ。わかるかな?」
自分自身を大切にする…。
「シュウ君とミワちゃんの精神的な繋がりを切りたいというんじゃない。それはかけがえのないものだし、ミワちゃんを大事に思う君の気持はすごくわかるし、その気持ちは大切にして欲しい。でもね、物理的な…、食事を作るとか、食べさせるとか、トイレに連れて行くとか、洗濯をするとか…。そういう部分を、僕たちに頼って欲しいんだ。」
「…。」
「なんでこういう話を君にするかというとね、僕たちの考えだと、今まで君は頑張りすぎちゃってる。ミワちゃんの面倒とか、ご家族の生活を支えてきたこととか、誰にでもできることじゃない。君だからできたことなんだと思う。それは本当にすごいことだと思う。でも、君はまだ11歳の小学校5年生。頑張りすぎちゃってると、僕も正直そう思う。」
「…。」
「ここではね? ミワちゃんのことよりも、自分自身を大切にして、生活を送って欲しい。わかってくれるかな?」
 だから、食事の時ミワと離れた席にされたのか…。
「ミワちゃんはまだ4歳。小学校に上がってないから、ここでの生活のリズムも、小学生とはスケジュールがちょっと違う。ミワちゃんの生活に必要な手助けは、僕たちにさせて欲しい。君は、君自身を大切に生活を送って欲しいんだ。」
 僕は、僕自身を大切にして、生活を送る。ルール4。
「ミワちゃんは、朝起きてから、ぐずるとか僕たちを困らせるとかせずに、すごく素直に、ここでの生活に打ち解けようと頑張ってると思う。わずか4歳で、人見知りもせず、泣いたりとかもせず、ミワちゃんなりに環境に順応しようと頑張ってる。そういうことができるのは、君が…、シュウ君が、ミワちゃんのことをこれまでずっと、とても大事に育ててきてるからなんだと思う。君は本当にすごい。ミワちゃん見てたらわかる。君がどれだけミワちゃんのことを考えて生活をしてきたのか、たった半日しかミワちゃんを見ていないけれど、君がミワちゃんを健やかに成長させてきたんだと、僕は体感としてわかる。」
「…。」
「だから、君がこれまで、ミワちゃんとかご家族に向けてきた矢印を、自分自身の生活とか、自分自身の将来とか、そういうことに向けて欲しいなと思ってる。」
「…。」
「正直、ここでの生活は、君が考えてるより、ちょっと長くなるかもしれない。ここで生活をしていく中で、自分自身と向き合うってことを、僕たちと少しづつしていこう?」
「…。」
「今、全部理解しろって言われたって、無理だと思う。でもね、僕たちは決して敵じゃないってことを頭に入れておいて欲しい。僕たちは、僕たちなりに君の生活の事や、君の将来のことを、一緒に考えていきたい、そう思ってる。わかってくれたかな?」
「…はい…。」
 成田さんは最後に笑顔でそういった。

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