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ライトノベルの賞に応募する(6)

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「おい! ちゃんとパス回せよ!」
校庭に怒号が響く。
「俺が回ってきてるの見えてないのかよ!」
 一通りのウォーミングアップメニューを終え、僕たちは五対五チームに分かれて紅白戦をしていた。昼休みとは違い、練習着に着替え、サッカー用の長いソックスに脛あてをし、スパイクを履いている。
 タカシはいつも声を大きく、自分にパスが回らない事をストレートに文句を言う。それでもタカシはパスを受けようとする位置取りも、パスが回ってきたときにピタッと自分の足元でボールの動きを止めるボールコントロールも、そのあとの動きだしの早いボールキープもうまい。僕たちの学年でタカシの技術は一つ頭の出た存在だ。その分性格もキツイ。わがままというか、我が強く、自分の思う通りにならないと、ストレートに感情をあらわにした。特にサッカーのプレイ中は感情的になる。この紅白戦だって、6年生との合同練習だが、タカシは6年生にプレイも態度も負けていない。確か3つ上にお兄さんが居る。同じサッカーをしているお兄さんが居る奴は、ボールに触れ始めるのも早いし、うまい傾向があると思う。きっと幼いころから遊びながら3つも上の人たちとサッカーをしてきたのだろう。
「お前、ふざけんなよ!」
タカシがタイミングよくパスを出せなかった、ミツルにつかみかかろうとするのを、僕は間に入って止めた。
「タカシ! もうやめろって」
ミツルが今にも泣きだしそうな顔をして、固まっている。時間停止スイッチでも押されたみたいに、前にも後ろにも進めずその場で固まっている。
「そんな感情的に言ったって、ミツルもわからないだろ?」
「ったく!」
タカシが僕から離れる。タカシの激昂で、ゲームはそこで止まっていた。
「誰かボード持ってきてくれよ」
僕は簡易のホワイトボードを受け取って、タカシとミツルを呼んだ。ゲームが中断しているので、みんな僕たち三人の周りに円になっている。
赤と青の駒を、さっきのミツルとタカシの状態に並べてみる。
「タカシ! ミツルがボールを受けるときの配置はこうだよな?」
ミツルはフリーでボールを受けている。その前に敵の二人のラインがある。
「そうだよ。」
ミツルがボールを受ける瞬間に、その二人のラインの一歩先へタカシが前線に出て、ディフェンス二人からフリーになり、ゴール前にタカシひとりになる様子を、駒を動かして、説明した。
「ミツル。お前がボール取る前、タカシはまだこの二人に遮られてるだろ?」
「うん。」
泣き出しそうなミツルが、僕の刺すボードを見ていた。
「ミツルにボールが回ってくる瞬間に、タカシが前に出た理由わかるか?」
「…ディフェンスラインの先に出て、ディフェンスからフリーになってる…。」
「タカシそういうことだよな?」
「そうだよ。」
「タカシは、このディフェンスラインの先に出た瞬間にボールが欲しいんだ」
紅白戦のメンバーが、僕が動かすボードに集中している。
「この瞬間にボールを受けられたら、そのままフリーでゴール狙えるだろ? この瞬間を逃してディフェンダーに追いつかれると、タカシはまたディフェンスラインをどうにかして突破しなくちゃいけなくなる。タカシはこのディフェンスラインから、顔を出した瞬間にパスが欲しかったんだよ。ミツル、わかるか?」
 ボードの上で駒を動かしながら、自分の陣営と敵の配置の動きを見る歴史は古いらしい。日露戦争の時に、秋山真之という海軍の戦略家が、地図の上で敵の軍艦と自分の軍艦の位置をその場で把握しながら動かして、作戦を練り直したそうだ。サッカーチームのコーチが教えてくれた。
 僕は赤の駒を敵に、青の駒をタカシとミツルの位置に置き換え駒を動かしながら、ミツルに説明する。
「ミツルがボールを受け取った時、ディフェンダーの二人は、ミツルに注目してるから、タカシは自由に動けるだろ?」
「うん…。」
「タカシは、その瞬間を狙って前に出てるんだよ。」
 タカシはつまらなそうに、所有者の居なくなったボールでリフティングを始めている。
「タカシは、ミツルにボールが回る前から、ミツルにボールが回ったらこうしようって周りを見ながら、考えてるんだ。」
 3手先くらいまでは考えながら動こうと、僕も思っている。タカシの意図は痛いくらいにわかった。
「ミツルは、今自分にボールが回ってきたら、どこにパスしようとか、どうやってディフェンスライン越えようとか、考えながらプレーしてるか?」
「…ごめん、できてなかった。」
「じゃあ、タカシが怒らなかったら、ミツルは今のタカシの意図わかんなかっただろ?」
「…うん。」
「タカシ! ちょっと来てみんなに分かるように説明しろよ。」
「っち!」
タカシが舌打ち一つして、リフティングを辞め輪の中心に歩み寄る。
「だから、ここにディフェンスラインがあって、お前がボール取る前に動き出したら、ディフェンスラインごと前線に出ることになって、パスも通りにくくなる。だから、お前がボール受ける前にはこのディフェンスラインを越えないように、位置取りして、お前がボール受けた瞬間に前に出てるから、そこで俺にパスすればいいんだよ!」
タカシは自分を指す青い駒を、前線に動かしながら、まだぶっきらぼうにへそを曲げている。
「ミツル、わかったか?」
「わかった。」
僕は、ミツルの並んで立ち、肩をポンポンと二回叩いた。
「タカシは口は悪いけど、俺らよりちょっと先まで見えてるんだと思うんだ。」
「うるせー。」
タカシは僕の説明に、それだけ言った。
「タカシの動きは、次のことを考えながらしてるからさ、タカシの動きの意味を分かるようになって、自分もできるようになりゃいいだろ?」
「うん…。ごめん…。タカシ…。ごめん。」
ミツルはタカシに謝った。
「…次からちゃんとパス回せよ。」
タカシはそれだけ言うと、輪の中心から離れた。
ミツルと僕は顔を見合わせて、少し広角を上げた。これでチームは大丈夫だ。
「じゃあ、スローインから始めようぜ!」
六年生が声を掛け、紅白戦の試合の続きを促した。
僕は、持っていたホワイトボードを荷物のある所まで走って持っていき、続きに合流した。
ボール回しをしている敵陣に目をやりながら、タカシが僕に近づいてきて声を掛ける。
「…悪いな。」
「いいよ。」
「お前が話すと、わかりやすくて助かるよ。」
タカシからそいう言う言葉を聞くのは珍しい。
僕が驚いて、タカシを見つめると、タカシははにかみながら続けた。
「俺すぐ頭に血が昇っちゃうからさ…。」
僕の肩をポンと一回叩くと、タカシは走り去りながら続けた。
「お前才能あると思うぜ?」
「えっ?」
僕はハトが豆鉄砲食らったように立ち止まってしまった。
「あの瞬間に、俺のことわかってたの、俺とお前だけだぜ?」
タカシに続いて、僕も走り出す。
「俺だって、あの瞬間に説明するとかできねーよ!」
タカシが走りながら会話を続ける。

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