ライトノベルの賞に応募する(34)
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話し合いはそれで終わったので、僕は湯川さんと部屋に戻った。湯川さんと部屋に戻ると、ミワはもう寝ていた。
「ミワちゃん寝ちゃってるね。」
「はい。」
「さっき、君はすごく頑張れたと思う。」
「…。」
「冷静な言葉で、自分の考えてることを表現できていたし、相手の考えてることを想像して、受け入れられることと、そうでないことを判断できていた。」
「…。」
「それは誰でもできることじゃない。オトナになったからってすべての人ができるってわけじゃない。自分の希望が通らないことを感情に任せて強い言葉で表現し、自分が非を認めて受け入れなきゃいけないことも無視して、自分を通そうと、他人を自分の思う通りにしようとする人はいっぱいいる。」
「…。」
「だから、君は自信をもっと持っていいよ。君はここの新しい価値観を、受け入れようと努力していたし、その対処方法の提案に対して、すごく素直に向き合おうとしていた。」
「…はい。」
「もっと自信をもちな? そんなこと誰にでもできることじゃないから。11歳だからとか、オトナだから、60歳だから、って言ってできることでは決してないんだ。君が君だからできることだ。」
「…。」
「自分や他人と向き合う、君にとっては嫌な時間だったと思う。でも君はそこから何かを学ぼうとする姿勢を崩さなかった。」
「…。」
「逃げなかった。」
「…。」
「すごく偉かったと思うよ。」
「…ありがとうございます。」
「これからもそういう姿勢や、考え方を大切にして欲しい。僕はそう願うな。ここの職員だからってわけじゃない。僕が君を見ていて、僕が個人的に思ったことだけどね。」
「…はい。」
湯川さんはそう言うと、さっきと同じ場所に腰を降ろしたので、僕もさっきと同じ向かい合って座った。
「じゃあ、この話はもうおしまいにして、ギターの続きをしよう。」
湯川さんはそう言うと僕に小さな黒い箱の形をした機械を渡してくれた。
「これから話すのは、ギターをするのに一番大切な部分。チューニングだ。」
湯川さんはそう言うと、ギターを弾く前に必ずチューニングをするように丁寧に教えてくれた。渡されたのはチューニングに必要なチューナーとしての役割と、メトロノームと同じBPMを鳴らしてくれるものだった。僕のために用意したから、くれると言った。そしてハイスタンダードのステイゴールドが入っているアルバムを貸してくれた。アニメみたいな明るいイラストのジャケットだった。明日聞けるように施設にあるラジカセとヘッドホンを貸してくれると言った。
僕はそのアルバムから歌詞カードを出して、ステイゴールドの歌詞を初めて印刷物としてみた。
「ねえ、シュウはステイゴールドってどういう意味だと思う?」
「っえ?」
「ステイは維持するとか、その場にとどまるとかって意味だよね?」
「はい。」
「ゴールドは金。輝きの象徴だね。」
「はい。」
「直訳すると、輝き続けろってことだけど、そういう意味だと思う?」
僕は歌詞カードに目を落とした。
my life is a normal life
working day to day
no one knows my broken dream
I forgot it long ago
I tried to live a fantasy
I was just too young
In those days you were with me
the memory makes me smile
I won't forget
when you said to me "stay gold"
I won't forget
always in my heart "stay gold"
it was you such a lonely time
after you were gone
you left me so suddenly
they was how you showed your love
now I see the real meaning of your love
now I see the way to laugh
though your way was awkward
I won't forget
when you said to me "stay gold"
I won't forget
always in my heart "stay gold"
湯川さんとその歌詞を頭からひとつづつ訳していった。
平凡そのものの人生を送る今、でも夢を持っていた時期もあった。そんなときに一緒に過ごした大切な友達が居た。その友達が"stay gold"と言ってくれたことをずっと大切にするという歌だった。"stay gold"という言葉は4回出てくる。湯川さんは、その四回とも違う意味なんじゃないか? と言った。4回とも同じく輝き続けろって言ってるわけじゃないんじゃないかって。
僕もそのことについて考えてみる。一回目の"stay gold"はI won't forget(自分はこの先も忘れない)と最初に言った後に出てきて、その文言が二回繰り返される。その友人が、自分の前を立ち去る前のシーンだ。ということは、一回目と2回目の"stay gold"は、自分と友達が一緒に居る。3回目と4回目は友達が自分の元から去ったことを悲しんだ後に思い出すように言ってる。
「シュウはどう思う?」
湯川さんにそう言われて、改めて考えてみた。
「これから輝き続けろじゃなくて、ステイ…、そこに居続けろってことだから、すでに今輝いてる…。」
「うん。僕もそんな風に思うんだ。自分と友達が一緒に過ごした時間がもうすでに"gold"なわけであって、友達が自分に向かって言った"stay gold"はもうすでに二人が"gold"を手にしてるんじゃないかって…。」
「そう考えると、その友達は、Iだけに対して"stay gold"と言ってるわけじゃない…。」
「うんうん。僕もそんな気がするんだ。本人に"stay gold"と今以上に輝けって投げて言ってるんじゃなくて、一緒に過ごした日々そのものが"gold"だって思ってるって事じゃないかと思うんだ。」
「確かに。それならnow I see the real meaning of your love(今なら俺にもお前の言った言葉の意味がわかるよ)の意味も分かる気がします。友達と一緒に過ごしてる時間は本人は"gold"だとは気が付いてなかった。だから、友達と一緒に居るときには"stay gold"と言われても意味が分からなかった…。」
「うん。この仮説はどうだろう?」
「確かにそう考えると"stay gold"と同じ言葉が4回繰り返されるけど、全部意味が違うのかもしれない。最初の2回の"stay gold"は自分に対して言われたものだと思ってる。でも、友達という存在をなくした後にそれに気が付いたんだったら、最後の2回は"stay gold"と言った友達と同じ感覚を持ったって事じゃないでしょうか?」
「いいね。僕も今、改めてこの歌詞を読んでみて、君と同じことを思った。」
「ということは、その状況が"gold"だとは本人は気が付いてなくて、友達を失ってその言葉に向かい合ったときに、ようやくそのことが"gold"だったんだと気が付いた。」
「もしかしたらさ、この本人にとっては、その友達と居た時間は楽しいとか嬉しいだけじゃなくて、苦しいとかつらいとか、そういう風に思ってたんだとしたら? だからIは"stay gold"と言われても、今以上に輝き続けろって自分だけに投げて言われてるんだと思ってた…。」
「苦しいとかつらい…。」
「僕たちがさ、こうやって出会って、話してる時間は、今はその時間が"gold"だとは本人は気が付かないんじゃないかな?」
「…。」
「僕たちがこうしている時間そのものが、後になってみたら"gold"かもしれない…。」
「…。」
「自分の思うようにいかなくて、でも。それに負けないで、もがき苦しんでるそういう日々そのものが、実は"gold"で、"stay"って言いたくなるくらい、友達にとってはかけがえのない時間だったんじゃないかな?」
「二人で過ごした時間そのものが"stay gold"…。」
「いつまでも続きはしないと分かってる、でも、続いて欲しいと願ってる。そう思って友達はIに"stay gold"と言ったんじゃないかな?」
「続かなかったから、失ったから"gold"だったんだと、Iは後で気が付いた…。」
「僕は思うに、何かを手に入れた瞬間よりも、手に入れたいと願って頑張る時間の方が、不思議と気持ちに残ってるんだよね。例えばこのギター。これだってさ、僕はいろいろ調べて、こんな音が出るはずだから、何としても手に入れたいと思って貯金を頑張る。買えた瞬間、手に入れた瞬間は確かに嬉しいし、手に入ってからも楽しい。でも、どうしてもこのギターが欲しいと思ってやりくりしてる時の事の方が、なんだか記憶が濃いんだよね。よく覚えてるんだ。僕がこのギターを欲しいと思っていた時の自分がどういう状況で、どんなことを考えてたか、一本一本よく覚えてるんだ。」
「…。」
「手にしてしまえば、また次のギターが欲しくなってる自分が居る…。」
「昨日、ミワの寝顔を見ていて思ったんです。昼間、僕は僕を大切にしてここで生活しなさいと成田さんに言われて、改めてそのことについて考えてみたけど答えが出なかった。僕は、今までミワのために、僕が「してやってる」と思ってた。でも成田さんに、自分を大切にしなさいと言われてから見たミワの寝顔は、僕が僕であるために必要なものだった。実はミワの存在に「僕が支えられてる」って…。そう気が付いたんです。」
「なるほど、誰かのためにと思ってしていた行動が、本当は自分のためだった…。」
「…。」
「"stay gold"…。」
「もしかしたら今の瞬間が、"stay"するべき"gold"なのかもしれない…。」
「じゃあ、今を大事に頑張らなきゃいけないね。」
「…。何かを手に入れるために頑張る日々が"stay gold"…。」
my life is a normal life
(俺の人生は平凡そのもの)
working day to day
(毎日毎日ただ働くってだけ)
no one knows my broken dream
(俺にも夢があったなんて、誰も知りもしない)
I forgot it long ago
(もうずっと前に忘れてしまったけれど)
I tried to live a fantasy
(夢の中を生きようとしたことが、俺にもあったんだ)
I was just too young
(若すぎたんだね)
In those days you were with me
(あの頃はいつもお前と一緒だったよなぁ)
the memory makes me smile
(いま思い出しても笑っちゃうよ)
I won't forget
(俺は絶対に忘れないから)
when you said to me "stay gold"
(「お前は最高に輝いてる」ってお前が言ってくれたこと)
I won't forget
(俺は絶対に忘れないから)
always in my heart "stay gold"
(その言葉、いまも心の中にしまってあるんだ)
it was you such a lonely time
(悲しかったことも思い出したよ)
after you were gone
(お前がいなくなってから、本当に寂しかったんだ)
you left me so suddenly
(お前は突然いなくなってしまったけれど)
they was how you showed your love
(それがお前なりの愛情表現だったんだね)
now I see the real meaning of your love
(今なら俺にもお前の言った言葉の意味がわかるよ)
now I see the way to laugh
(本当に笑わせてくれるよな)
though your way was awkward
(お前はいつも不器用なんだから)
I won't forget
(忘れないから)
when you said to me "stay gold"
(「そのままのお前でいろよ」って言ってくれたこと)
I won't forget
(俺は絶対に忘れないから)
always in my heart "stay gold"
(その言葉、いつまでも、ずっと、大切にしてるから
お前と過ごした時間そのものが、最高に輝いて、俺の中に残っているから)
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