#角野隼斗サントリー(ストリーミング公演)

 Hayato Sumino Piano Recital 2020 @ SUNTORY HALL のストリーミング公演のアーカイブが終わってしまいました。
 音楽をここに写し取ることはできないけれど、どうしても彼の言葉を残したくなりました。

■リアル公演とストリーミング公演、いかがでしたでしょうか…

■『ハンガリー狂詩曲』を弾いてた頃の記憶がなくて…僕は何を弾いてたかまったく思い出せないんですけど…今、『古時計』を弾いてちょっと落ち着きました…

■この2020年というのはすごく大変な年で…まぁ大変なのは僕だけじゃなくて、この世界全部なんですけど…

■コロナでコンサートが全くできなくなって…僕はこの日のリサイタルが2020年の最初で最後のリサイタルなんですけど…

■環境も大きく変わって、良いことも悪いこともたくさんあるんですけど…その中で自分の目指す先みたいなのを、この2020年はすごく考えていたような気がして…

■その中でこういう事をやろうと思って今回リアルとストリーミング公演…ストリーミング公演の方はかなり自由にやらせてもらいましたけど、このサントリーホールで…

■僕はとても楽しかったですし、きっとみなさんも楽しんでいただけたらなぁと思ってます…

■やっぱり僕は…何だろう………………人と違うことがしたくなるわけですね、愚かなので

■人と違うことをするってのは、やっぱりすごく怖いことで…めちゃくちゃ怖いし…受け入れられるかどうかわかんないし…

■でも自分はこうしなきゃいけないんだって…しなきゃいけないんだってのはおかしいけど…こうしたいんだっていう気持ちを強く持つことが大事なのかなと思ったり…

■それでできたのが『HAYATOSM』の一曲目のピアノソナタ第0番『奏鳴』であって、『HAYATOSM』アルバム全体であって…

■だからソナタに “第0番“ ってつけたのも、自分は “何者でもない“ というか、まだ “無“ から始まるんだという想いで、どうしても “1” という番号をつけれなくて…それで “0番” になったんですけど…

■それはきっとこれからの始まりでもあって…あの曲というのは「自分はクラシックをやりながらも新しいことがしたいと思う人間」だけど、それってどうなんだろうみたいなことをずっと考えて考えた中で見つけた希望みたいなものを表したくて…

■それがリストとかショパンとかの生き方に近いものなんだろうなと思ったんですけど、そこで…こういうコンサートとアルバムになりました…

■でも、みなさんに何かを伝えたいわけじゃなくて、僕はメッセージを押しつけがましくしようとは思ってなくて…ただ僕はこういう風に死ぬ気でがんばってるので、死ぬ気でがんばってる僕を見て、音楽を聴いて、何か少しでも勇気や元気を与えることができたらなぁという想いでやっております…

■クラシックをやる人間として偉大な作品というのを紡いでいかなければいけないという使命感というものはあるし…その中でどういう風に自分ができることをそこに足していけるかということかなぁ…

■何が言いたいのかわからなくなってきましたね…真面目な話は苦手なんですよ、ほんとは…でも、こういう事をたまには言ってもいいんじゃないかと思ってるんですけど…

■…ということで何を話そうとしてたんだっけ………このストリーミング公演を楽しんでいただけたなら僕は何よりの幸いでございます…

 彼の “魂の叫び“ から生まれたのが、ストリーミング公演の第一曲目、この『ピアノソナタ第0番「奏鳴」』です。
 彼が自分の言葉で率直に想いを伝えてくれているので、余計な言葉を付け足す必要はないとも思いますが・・・少しだけ語らせてもらいますね。

 ちょっと前のかてぃんラボの中で、この曲のことについて「相反する二つの感情がぶつかって、昇華して生まれたもの。自然とソナタの形になった」って話してくれました。
 プレミア公開で初めて全編を聴いたときに、第一主題と第二主題(いわゆるAメロ、Bメロ)でどんな感情を表してるのかまではわからなかったけど、優雅な展開部から再現部にかけて昂まっていく感情が、歓喜で爆発する終奏(ラスサビ)へ向かう流れには、確かな希望の光が見えました。
 美しくキャッチーでありながら独創的な旋律。ジャンルの垣根を超えた音楽のエッセンスが詰め込まれたような構成。そして卓越した演奏技術。
「0(ゼロ)から1を生み出すメロディメーカーとしての才能」×「その1を100にまで高めるアレンジャーとしての才能」×「100の作品を最高のパフォーマンスで聴衆に届けるプレーヤーとしての才能」
 それらすべてが掛け合わさって生まれた『ピアノソナタ第0番「奏鳴」』は、必ずや2020年の、いやこの時代の傑作として歴史にその名が刻まれると断言できる。若手ピアニスト達がこぞって「はや0」にチャレンジしてる未来が見える。角野さんが努力の天才だってこと、死ぬ気でがんばってること、わかってるけど、どうやらそれだけでは成しえない高いステージに角野隼斗は辿り着いたようだ。そして私たちはコンポーザーピアニスト・角野隼斗爆誕の瞬間の目撃者となる。

他の曲もさらっと振り返ってみます(演奏順):

 『死の舞踏』のホーンテッドマンション感、その入り口としての『暗い雲』・・・角野さんなりの再解釈の意図がどこまで自分に理解できているかわからないけど、怖さだけは十分に伝わってきました。世界観に浸っていると表情や仕草まで妖艶な死神に見えてくる(褒めてます)。
 『大猫のワルツ』は、確か7/2の30万人ありがとうライブで「今作ってる曲の種です」と披露してくれたのが最初だったような気がします。「ねぴらぼ」のソロコーナーの演奏から更にブラッシュアップされていて、『子犬のワルツ』と並べると二卵性の双子のような作品に仕上がっています。当初テロップが『Big Cat Waltz (Chopin)』になってても普通にスルーしそうなくらいにぴったりはまってます(※その後 (Hayato Sumino)にちゃんと訂正されてます。正真正銘、角野さんの作品ですからね)
 ここでアルバム収録曲以外の演目で『アイ・ガット・リズム』がきます。ガーシュウィンの超有名Jazzナンバーですね。Cateen's Piano Live(CPL)の中で何度かフレーズを聴くことはあっても、フルで演奏してくれるのは初めてだと思います。途中、『ラプソディ・イン・ブルー』が入ってきます。こちらも角野さんの十八番のひとつですね。こっちは、東大ピアノの会の端正で初々しいソロ演奏やアホ毛をぴょんぴょん弾ませながら(失礼)オケと共演しているPTNAバージョンの動画で今も観ることができます。そういえば来年の2月にはこの曲でサントリーホールに帰ってくることになってます。
 次は “一人で茶番はしんどい” 『ティンカーランド』です。この曲、一人で生演奏ができることがまず驚きです。もちろんグランドピアノとトイピアノとピアニカの三台を同時に鳴らすことは不可能ですが、そこは上手く編成を整えて何の違和感もなく仕上げてきています。一人三役でものすごいことをやってるのに決して曲芸的にならず、心がワクワクする楽しい演奏でした。
(※なぜティンカーランドって題名にしたのか考えたけど、かてぃんらんどからの語呂遊び説有力!?)
(※全然関係ないんだけど、この曲で『グローバルステージ!』(日テレ)に出てたら、あのプロデューサー達も絶対Excellent付けただろうといつまでも根に持ってるおっさんがここにいます汗)
 『ノクターン第9番』は角野隼斗バージョンが耳に馴染みすぎて、ショパンのオリジナルがどんなだったか忘れてしまいました。かてぃんチャンネル視聴者あるあるですね。ショパン大先生には申し訳ないですが、長調・ハッピーエンドに一票です(というか好き、癒される)。
 ここに難曲『ラ・カンパネラ』を持ってくるのかという驚きです。リアル公演、ストリーミング公演と合わせて3時間、心身共に極限状態の後半にトリプルアクセル持ってくる感じでしょうか。加点1.1ですね。もう何というか高音の鐘の響きのクリアなこと。なんでこんな音が出せるんだろう。
 本編最後の曲『ハンガリー狂詩曲』は鬼気迫る迫力に、息をするのを忘れてしまうほど圧倒されました。凄い演奏を目の当たりにすると言葉を失くしてしまいます。リミッターの外れる瞬間って何度か目撃したことあるけど、今回の特に水飲んだ後の怒涛のカデンツァ、絆創膏引っぺがした場面、死ぬ気でというか死んでもいいと思ってしまうくらいハイになる瞬間ってあるでしょう。なんかそんな狂喜すら感じてしまった。

 ■ストリーミング公演、ありがとうございました。リスト弾きながら、なぜだか笑いが止まらなかった..... 楽しいを通り越して、たぶん狂ってた 最高の夜だ 
午後10:45 · 2020年12月13日

 アンコールの一曲目は『大きな古時計』変奏曲です。25歳の青年が描く人間賛歌。人生の物語に寄り添う優しく温かい音が心にじんわりきます。

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そしてここから冒頭の彼の言葉が始まります。
あと少しだけMCは続きます。

■…最後に一曲、リアル公演の一曲目でも演奏したショパンの『英雄ポロネーズ』を最後に弾いて、この公演のお別れとさせてください…

(海外の視聴者に向けて英語で感謝の言葉)

■…ということで、最後は元気に終わりましょう!…ということで…「ということで」を言いすぎだ俺は…最後に『英雄ポロネーズ』を弾かせていただきたいと思います…聴いてください!

 『英雄ポロネーズ』で始まった9/30の告知動画。あっという間の二ヶ月半でした。リアル公演の幕開けも、ストリーミング公演の締め括りも、『英雄ポロネーズ』でした。

 「ショパンとリストに憧れた21世紀の愚かな若者の挑戦」
2020年最初で最後のピアノソロリサイタルを位置づける彼の言葉です。「愚かな」ってとっても彼らしい表現ですよね。
「臆病な賢者ではなく勇敢な愚か者たれ」という彼の決意を感じます。

 迷い悩み、時には傷つくこともあるだろうけど、彼は決して挑戦をやめない。そんな彼のテーマソングが『英雄ポロネーズ』。どこまでも前へ前へ

「角野隼斗、僕のヒーロー!  その扉の向こう側には、一体どんな景色が広がってるのかな・・・」


ここまで読んでいただいて、ありがとうございます。