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健全な危機感を持つチームが、事業を成功に導く

当事者が強い危機感を持っているプロジェクトほど、上手くいきやすいと常々感じます。

スタートアップは、市場の変化に柔軟に適応しながら開発を行なっていますが、世の中の前例を踏襲するだけでは上手くいきません。自社が挑戦している領域やプロダクト、ユーザなどの状況により最適解を見出さなければいけない場面が日常茶飯事です。

そのような状況で事業や企業の舵を取っていくためには、まず圧倒的な当事者意識が必要です。

当事者意識がないと「このままではまずい(危機感)」は芽生えない

事業やプロジェクトは、リーダーやマネジャーが主体的に動かないと回りませんが、実はそもそも自覚していない(できていない)ことも多いです。その場合、成功確度はぐっと下がります。

主体性の真意を自覚することにより、ようやく目的地と現在地を明確化し始めます。目的地を認識すると、そこにいつまでにどのように到着すれば良いのか。道筋を設計することができます。

道筋を設計すると、そのためにはどれだけのリソースが必要かなど、実現するための体制設計が行えます。するとここでようやく、実現の難易度を推し量ることができます。

全部が漠然とした状態では、それが今の体制で到達できるのかどうか。期限までに間に合うのかどうか。何が足りなくて何が必要なのかなどの目算が難しいです。やるべきことを可視化することにより可能になります。

目的地までの道筋をイメージできることにより、実現までの難易度を感じることができるので、ここでようやく危機感が芽生えます

「今のままではまずい」と。

スタートアップ界隈では、自分が思い描いた世界を「絶対実現できる」と信じた人が、明るい未来を築いてきました。一方、そのような長期的にポジティブで楽観的な人は、短期的には「今やっていること考えていることは、まだまだ全然ダメだ」というネガティブで強い危機感を持っています

それがあることにより、圧倒的なスピードと改善、革新的なアイディアが生まれます。人は、制限のある中や追い込まれた場面のほうが火事場の馬鹿力を発揮しますが、優秀なリーダーは危機感を感じる環境を自ら課すことにより、自走でそのマインドを育んでいます。

柔軟に対応できるチームは、常にあらゆることを想定している

予期せぬ出来事や変化に対して、柔軟に対応できるチームを観察していると、事前にあらゆることを想定しています。

選択した打ち手だけではなく、最悪な状態から最高の状態まで何十手も思慮しています。だからこそ、ある程度のことが起きても瞬時に対応でき、「予測の範囲内(一度そのケースも考えたことがある)」になります。

それを成せる人は、共通して「強い危機感」を持っています。強い危機感を持っていると、選択した道を正解にするための行動を自然と取るようになります。

頭の良し悪しや経験は関係なく、当事者意識から生まれる健全な危機感は、事業を成功に導きます。生じるあらゆる問題や停滞を前進させます。当事者の健全な危機感の総量が多ければ多いほど、成功確度は上がります。

「このままではまずいのではないか?」
「もっと出来ることはないか?」
「より良いやり方はないか?」

という危機感から来る問いを自問自答できる人が多いチームは、一気に成功確率が上がります。

逆にないと、優秀な人でも事業の確度が下がります。そのマインドセットをすること、それをチームに伝播して醸成することが、リーダーには求められていると感じます。

とくに新規事業は、「これを順番にやれば成功する」というのはありません。どこまでも仮説を立てて実施する以外にないので、「このままで良いのか?」の危機感から生まれる思考が重要なのです。

どのように育むのか

健全な危機感は、不安感とは異なります。こちらの書籍によると、

不安感:
将来や現状に対して、具体的なイメージを持つことができないことにより生じる「怖い」「不安だ」という漠然とした感情。行動としては、立ち止まったり足踏みするなど、硬直して身動き取れなくなることが多い

危機感:
将来や現状に対して、具体的なイメージを持つことにより生じる「このままでは危険だ」「今の状態から変化しなければならない」という感情。行動としては、それ以前よりも素早い行動を取ることが多い

とあります。

不安感は、「行動することで生じる失敗への不安」による行動制限。危機感は、「行動しないと失敗すると考える(機会損失をする)こと」による行動活力。ということだと思います。

チームの危機感を醸成するためには、高い目標、役割、委任、立場を作ってあげることが重要です。役割(責任)は、それだけ与えてもだめで、責任は権限(裁量)とセットで授けないと機能しません。

責任と権限がセットで与えられてはじめて、目的に向けて素早く行動ができます。目標、役割、委任、立場を持ち合わせ、素早く行動できるメンバーは、次第に熱量を帯びていきます。

組織としては、その熱量が他の人に伝播させる熱量エヴァンジェリストを社内につくることで、組織全体のマインドが上がっていきます。

環境要因が与える危機感

会社が意図せずとも、環境要因により組織の危機感が最大化することがあります。それは外的要因によって、変化に対するプレッシャーが生まれたときです。

例えば、今まで固定化されていた業界に、海外から黒船がやってきて一気にシェアを取られてしまうなどです。今まで安定的にシェアを確保していたのに、急に巨大なライバルが現れて多くのユーザを奪っていくことは、市場の変化が早い近年ではよくあることです。もしくは時代の変化により、業界全体が一気に縮小するタイミングなどです。

この場合、今のままでは当然やっていけなくなります。

今までと同じユーザ数、売上、利益を確保できない状況では、社員に同じ対価を提供できないばかりか、リストラする必要性も出てきます。さらには倒産の危機もあります。

その場合、急な環境変化により危機感のボルテージが一気に上がります。

今まで新しいことに試みることを躊躇していた企業でも、承認がおりやすくなったり、打開するための挑戦的な行動を推奨されるようになります。人や企業は、やらざる得ない状況(究極の痛みを避けるために行動しなければいけない状況)に追い込まれると、挑戦的なスイッチが入りやすくなるということです。

逆説的には、挑戦できなかったり危機感を抱きにくい人や組織は、

・失敗して失うお金や評価のほうを大きく見積もってしまう人や組織。
・企画したプロジェクトや事業が成功するだろうと過信する人や組織。
・自分たちに追いつける企業(競合)はいないと胡座をかく人や組織。

ということになります。

ある程度シェアが取れたり、成長して業界トップになったときこそ「衰退の始まり」と言われる所以なのかもしれません。

Amazonが常に初心を忘れないよう「Day1」イズムを掲げるなど、伸び続ける企業が危機感やそれを培うための文化を醸成しているのは、上記を危惧しているからだと思います。

重要だけど緊急性が低いもの

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第一領域の「重要かつ緊急のもの」は、多くの人が日々時間を取られているものです。誰の目から見てもすぐやらなければいけないことなので、誰でもすぐ行います。

一方、第二領域の「重要だけど緊急性が低いもの」に関しては、楽観視している人が多いです。来週までにやらなければいけないという危機感を持つことはありません。

しかし重要だけど緊急性がないものほど、本質的に大切なことばかりで、事業創造や企業を長期的に育みます。

当事者意識と危機感を持ち合わせた人は、この「長期的に重要だけど緊急性が低いもの」を後回しにしません。重要度を理解しているだけではなく、それができていない状態にストレスを感じるほどです。

ストレスを感じる理由は、進められていないことが長期的にどうなるのか、他のメンバーよりもイメージすることができるからです。そのイメージは、主体性・目的地の可視化や逆算・強い危機感を育んだからこそ生まれています。

主体性をきっかけに全てが連動しているのです。

そしてそのストレスを解消するために、長期的に重要だけど緊急性が低いものを、緊急性が高いものにしてしまいます

具体的には、

そのことに関しての「アウトプットの機会」

を設けることにより、緊急性が高くなる環境を作ります。

例えば、リーダーなら上司に、役員の方なら社長に、社長なら社外の人に。横着無人に接することができない人に対して、報告する機会を意図的に設けると効果的です。

例えば私の場合、一定の方々に対して、本質的なことを話す機会を定期的に設けています。それにより、その日までに考えたり行う必要性が生まれますし、その結果を報告しなければなりません。

そうすることにより、緊急ではない長期的に重要なことでも、「今」やらなければいけなくなります。アウトプットの機会を設けることにより、擬似的に緊急の枠組みに入れてしまうのです。

すると一気に優先順位が上がります。

逆にそうでもしなければ、日々降ってくる色んな緊急要件で予定が埋まってしまいます。とくに忙しい人がそうです。

さらに付け加えるなら、「不要なバイアスは、どうすれば剥がれるのか」に書いたように「大きな目標」を掲げると良いです。すると現在地からのギャップが大きくなり、より強い危機感を抱くことができます。

それによりスピードも増していきます。

とくに「その大きな目標を達成するのは、自分がやらなければ達成できない。」という自分の目標にすることが重要です。他の人の頑張りに左右されず、「最悪自分だけでも達成させるぞ。」と思うと、さらに当事者意識が上がります。

それをチームメンバー全員が感じていたら、それは最強のチームと言えるでしょう。

大きな目標を達成するためには、今と同じことをやっていてはダメなので、色んな思考を棚卸ししたり、何が必要なのかを洗い出します。根本を見つめ直さなければいけない機会は、長期的に重要なことを考えるには打って付けです。

上手くいかなった時のことを考慮しなければいけないので、そこでまた危機感を感じ、リカバリー案を出していきます。数値計算をして、方向転換基準(撤退基準)を決めます。

すると事業やプロジェクトを進める上で、ある程度の失敗や変化が起きても、対処してくぐり抜けることができます。

一般的にポジティブになることは良いことですが、私が今までみる限り、多くの経営者やリーダーは「今のままでは到達できない」という短期的なネガティブ思考により、現状打破へのものすごいエネルギーを生み出しています。

そのネガティブは、硬直して身動きが取れなくなる「不安感」ではなく、それ以前よりも素早い行動を生み出す「危機感」です。そしてその危機感は、圧倒的な当事者意識から生み出されます。

私自身、日々気をつけて意識していることですが、何かしらご参考になれば幸いです。


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若槻嘉亮 Hiroaki Wakatsuki
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